秋田県は、東北地方の他県に先駆け、地域IX(インターネットエクスチェンジ)の整備によりインターネットをベースに地域情報化を促進することを決め、2002年8月には地域IXを運営する企業もコンペで選定した。秋田県のインターネット普及率は、01年9月に県が行った調査で24.2%。県庁所在地の秋田市でも27.2%と大きな違いはない。「パソコンをもっていない」という回答は別にしても、「料金が高い」という悩みも浮き彫りになった。地域IXによりそうした問題を解決し、ネットワークインフラが整備されることで企業誘致にも活用しようというのが、秋田県の狙いだ。(川井直樹)

県主導の地域IX軸に情報化を推進 インフラ整備で企業誘致にも活用

■情報通信基盤整備を重点施策に

 秋田県でも電子自治体構築のためには、県民のインターネット利用環境を整備することを重視している。そのため、今年度をスタート年度に05年度までの情報化施策をまとめた「あきたIT基本戦略推進計画」でも、重点施策の筆頭に情報通信基盤の整備を挙げている。このなかで、今年度中に県内全市町村の主要地域でADSLなどの高速通信サービスを受けられるように、民間事業者に対する支援を行っていく方針だ。

 こうした情報基盤整備の核になるのが、02年度に運用開始した地域IX。その活用を推進するために、今年度は地域IXを中心にした「学術研究ネットワーク」の構築も計画している。

 「県内の情報通信インフラ整備は遅れていた。当初は情報ハイウェイと接続して無料開放ということも考えたが、民間事業者のサービス競争が激しくなり、料金も安くなってきたので、コスト面から競争できないと判断した」。小笠原浩二・秋田県企画振興部情報企画課副主幹は、民間企業主体の運営を選んだ経緯を語る。

 この秋田地域IX事業では、秋田県に本社を置く企業に受注資格を与えており、受注したデータコア(秋田市)は、地元企業のスタッフと東京に本社を置く独立系ITベンダーであるソリトンシステムズなどが出資して設立した会社。地域IXのコンペには、他にも秋田県情報産業協会に加盟する企業による共同出資会社も参加したが敗れた。

 地元の情報産業関係者は、「地元システムインテグレータや大手ベンダーが珍しく結束して地域IXに手を挙げたが、コンペの結果、負けてしまった。地元のIT企業にとって地域IXは、基盤整備だけでなく電子自治体や秋田への企業誘致なども含めて重要だったのだが…」と悔しそう。それだけ、地域IXをベースにしたビジネスチャンス拡大に期待を寄せているわけだ。

 地域IXは、秋田市の中小企業支援施設である「チャレンジオフィスあきた」内に置き、秋田県は地域IX構築のための設備投資の補助金として最高5億円までの支援のほか、民間利用を促進するためにアクセスポイント設置などに約2億8000万円と、合計で約7億8000万円の予算を割いた。

 地域IXは、北海道のIXとの接続や、東京にある複数のIXと接続することで県内のインターネット接続環境をスピード、利用料金の両面から飛躍的に効率化できる、と秋田県情報企画課では説明する。

 東京と接続するバックボーン回線は毎秒2.4ギガビットの高速回線を利用でき、秋田県に出先を置く企業の場合、月間の長距離サービス利用料金50-150万円を10万円以下で利用できるようになると、低コスト性を強調している。

 さらに、地域IXの設備はIDC(インターネットデータセンター)として利用できることも求められている。民間だけでなく、自治体の電子化にともなう共同利用センターとしての機能も、将来的には果たすことが考えられている。

■県主導のIT化と市町村の協調が課題

 ただし、いくら民間企業が運営するといっても、秋田県の地域IX構想に基づくだけに「公共性の確保」や「公平なサービス」を履行しなければならないという制限がある。IPトランジットサービスは可能だが、直接ISP事業を運営できないといった制約もある。単純にIX事業だけで収益を上げられるか、という問題も一部からは指摘されている。

 それでも秋田県では、地域IXを核にして電子自治体構築と地域情報化を推進する考えだ。秋田県庁自体の電子化については、「今年4月1日付で行政情報化推進班を設置し、本格的な取り組みを開始した」(安藤雅之・秋田県企画振興部情報企画課行政情報化推進班副主幹)。

 今年度については、「共同アウトソーシングを含めた電子申請の調査を行う」(安藤副主幹)と、地域IXのIDC機能を織り込んだ検討を行っていく方針。さらに5月下旬には、県内69市町村に参加を求めた電子自治体推進会議の第1回の会合も開かれた。県が中心となった会合だけに、「合併予定の自治体もあり、参加者は62人と大半の自治体が参加した」と、参加率は高い様子。今後は「部会を立ち上げて、公的個人認証などの検討を進める」(安藤副主幹)としており、共同アウトソーシングの本格的な活用を目論んでいる。

 県が市町村と連係して、地域IXの活用や共同アウトソーシングなどの導入を図る一方で、秋田市の場合も、電子自治体構築による24時間365日のサービス体制に向けて、これまでのコンピュータ運用の方法を変えつつある。

 秋田市には、NECの汎用機を中心とした情報システムがあるが、それまでは市の職員による運用だったものを、02年度からNECに対する一括運用委託に方針を変更した。「オープン系サーバーによる業務システム導入など、情報システム化が多岐にわたっており、必要とするスキルも増えている。職員の増員が望めない以上、ベンダーに一括委託する方が効率的」(加賀谷睦知・秋田市企画調整部情報政策課課長補佐)と語り、「結果として良かった」という。

 秋田県には、市レベルで構成する「秋田県都市情報処理研究会」がある。こうした組織と県主導のIT化が共存するのか、それとも摩擦につながるのか。

 あるベンダーの首脳は、「政府のIT化の方針は、自治体の置かれた状況を見ていない」と切る。特に、「長い時間をかけて営々と構築してきた汎用機系システムの安全性や堅牢性にかなうものはない」という自治体の情報担当者は多い。

 「先進的な事例を構築することが目的ではない」とはいっても、政府の補助金の対象となると、技術レベルも、取り組みの先進性もある程度は必要になる。秋田市の加賀谷課長補佐も、「合併をチャンスに、統合情報システムをオープン系で構築するという考えもあるが、これまで通りの住民サービスを維持できるかどうか精査しなければならないだろう」と見ている。

 県内市町村の自治体システムを構築した実績があり、市町村の立場を理解できるという点で、「地域IXも地元企業を中心とした合弁会社が担当した方が、地域情報化という面では良かったではないか」と、大手ベンダーの秋田支店担当者は語る。


◆地場システム販社の自治体戦略

北日本コンピューターサービス

■福祉関連分野で事業拡大狙う

 「市町村合併はチャンスだが深追いはしない」というのは、秋田市に本社を置く北日本コンピューターサービスの矢野博・東北支社長。本社は秋田市だが、秋田県を含め東北地方の自治体関係のビジネスは、本社内の東北支社で担当するという組織体系になっている。

 こうした体制になっているのも、福祉関連のシステムで全国展開しており、関東ではさいたま市(埼玉県)に拠点を置き、大阪市にも関西支社を置いて全国をカバーしているためだ。

 特に生活保護システムでは、全国280団体、県レベルでは50%のシェアをもつ。「町村が合併して新市に昇格すれば、生活保護など新たな業務が発生する。そのニーズをターゲットにする」と、合併ビジネスといっても基幹システムの統合だけではなく、これまでの実績を生かして得意分野でビジネスチャンスを広げるという方法を重視している。

 もちろん、秋田県内では同社が住民情報系システムを担当している自治体もある。「自治体の多くの業務を担当し、ノウハウのあるIT企業は多くはない。合併の渦中で、なおかつ時間が限られている中では、多くのことはできないだろう」と見て、確実にカバーできる案件に的を絞っていく方針を固めている。

 合併により基幹系システムのユーザーは全国で確実に減少するが、福祉関連のシステムを新たに導入する自治体も多い。「自治体の基幹システムの顧客があるという実績もビジネス拡大には重要。それをベースに得意分野を伸ばす」と、ビジネスチャンスを広く捉えている。