コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第35回 山形県

2003/07/14 20:29

週刊BCN 2003年07月14日vol.998掲載

 山形県では、昨年度に県庁を拠点に県内全域を網羅した高速通信ネットワークを開通した。これにより、今年度は電子県庁構築に向けた政策実施に力を入れる。その一環として、県内の44市町村参加による文書管理の共同利用を検討している。今年度中には、共同利用を進めるためのプロジェクト組織を設置する予定だ。県内では、IDC(インターネットデータセンター)がないことや市町村合併など、さまざまな課題が山積。共同利用構想を実現させるためにカギになるのは、市町村に対して住民向けサービスがどれだけ向上するか、という具体的な効果を示すことにある。(佐相彰彦)

県庁を拠点として高速通信ネットワークを構築 今年度は県の行政電子化が焦点

■文書管理の共同利用を検討

 山形県が2002年度に力を入れたのは、基幹高速通信ネットワークの本格稼動だ。

 同ネットワークは、01年度末に1Gbpsのダークファイバーを借り上げて構築。県庁をNOC(ネットワークオペレーションセンター)として県内8か所にアクセスポイントを設置。

 栗田貫也・総務部総合政策室情報企画課地域情報係長は、「これにより、県内のインフラ整備についてはほぼ完成した」と話す。

 県内のインフラが整ったことを受け、今年度は電子県庁の実現を踏まえた政策を具体化させる。

 これまで「行政情報化推進」という名称で、国とのLGWAN(総合行政ネットワーク)接続やホームページの充実、メールアドレスの設定および管理などを担当していたセクションを、今年度から「電子県庁推進」と名称変更した。

 「文書管理システムにおける市町村との共同利用を見据えて、どのような仕組みにするかを検討する。今年度中にはプロジェクト組織を立ち上げる」(富樫健治・総務部総合政策室情報企画課電子県庁推進主査)段階に入った。

 共同利用を実現するうえで問題となってくるのは、山形県には受託計算業務を行う民間の計算センターがあるものの、IDCがないということだ。

 この点については、「県がIDCを設置するか、企業がIDCを立ち上げるのを待つか、県内以外のIDCを利用することも視野に入れている」(富樫主査)と、さまざまな可能性を模索している。

 また、市町村合併が共同利用を足踏みさせる可能性も十分に考えられる。栗田係長は、「合併してから基幹システムの統合や地域ネットワークの整備を行うケースが多い。しかも、44市町村のうち庁内のLANが整備されていない自治体があるのも事実だ」と打ち明ける。

 県内では、今年7月1日時点で法定協議会が3件、任意協議会が4件。県内44市町村のうち、32市町村が合併構想の中にある。

 市町村との連携を強化するため、山形県では「山形県情報化推進県・市町村連絡協議会」を00年度に設置した。

 富樫主査は、「IT化を進めていくうえで、システムの共同利用は避けて通れないといえる」と県と市町村の連携は不可欠と強調する。

■住民サービスの向上がカギ

 山形市は、昨年度に地域イントラネットを構築し、本庁と市内123か所にある出先機関を専用線で結んだ。志藤聡・合併推進部情報企画課主幹兼開発運用係長は、「グループウェアを導入し、出先機関と情報共有などコミュニケーションが図れるようになった」と、インフラ整備のメリットを語る。

 また、「ネットワークを介した市民向けサービスを提供するための基盤として位置づける」(志藤主幹)としており、市内28か所の公民館にタッチパネル式の専用端末を置き、住民票発行申請書などをダウンロードできるようにした。また、市民向けにICカードを6万2000枚無料配布し、市役所や4か所の公民館の自動交付機で住民票や印鑑登録証明書を入手できる。さらに、市民カード加盟店で飲食や商品の購入などの際にポイントサービスが受けられるなどのサービスの実証実験も行っている。

 今後は、住民基本台帳カードとの統合も検討していく。「カードの発行時に金額が発生するのであれば、市民カードと統合して住民に便利なカードにすることが需要を増やすカギだ」(志藤主幹)と指摘する。

 山形市では、上山市、山辺町、中山町との法定協議会を設置している。伊藤尚之・合併推進部情報企画課情報調整係長は、「県が共同利用を決定した場合、山形市だけで参加するというわけではなく、将来、合併する市町との話し合いで検討していきたい」とあくまでも合併を織り込んだIT化を図る。しかも、「共同利用は、利便性や負担金額によって参加するか否かを決めることはありうる。しかし参加することで市民へのサービスがいかに向上するかということがもっとも重要な要素だ」と指摘する。


◆地場システム販社の自治体戦略

NEC山形支店

■年率10%成長を計画

 NEC山形支店は、自治体から大型案件を獲得することで自治体ビジネスの拡大を図る。

 福田利浩支店長は、「06年度までは、売上高の前年度比10%増を維持する」と公共向けビジネス拡大に意欲を見せる。

 山形県においてNECは、「基幹システムの件数シェアが10%程度。しかし、シェア拡大にはこだわらず、人口規模などで1案件の大きさを重視する」という戦略だ。

 大きなビジネスチャンスとみているのは市町村合併。山形や上山、鶴岡などの各市に基幹システムを納入しており、この3市が関係している2件の合併に関しては、「県内における全人口の約40%を占める規模になる。基幹システム統合の案件を確実に受注したい」という。

 また、山形県が検討している文書管理システムの共同利用に関しては、地元の計算センターとの連携を図る考え。

 地元企業がIDCを立ち上げるうえで課題となる多大な初期投資も、「医療分野や企業のアウトソーシングの案件を開拓していく」と、自治体以外の分野のビジネスを広げることでカバーすることを地元計算センターに対して提案している。

 また、「解決策として、地元の計算センターに仙台市など近隣のIDCと連携することを提案していきたい」とも言う。

 仙台市には、NECのパートナー企業のテクノ・マインドが来年4月をめどに新本社ビルを完成させる予定で、本社にIDC機能をもたせる。「セキュリティを含めてどのような連携を図っていくのが最適かを詰めている」段階だ。


富士通山形支店

■共同利用の獲得へ

 「県は、共同利用を進めていくにあたり、さまざまな仕組みを検討している。富士通としては、どんな仕組みでも迅速に対応できる体制を敷いておく」と強調するのは、富士通山形支店の中村崇支店長。

 山形県に基幹システムを納入しており、県が検討する文書管理システムにおける市町村との共同利用は落とすわけにはいかない案件というわけだ。

 富士通は山形県で、計算センターのYCC情報システムやデータシステム米沢との関係が深い。

 「地元企業とのアライアンスをベースとして、全国規模で展開する富士通の総合力を生かす」と、全国での富士通の導入実績をバックに山形県のニーズにあった提案を行っていく。

 市町村では、住民情報システムを米沢市や南陽市など11市町村に納入。

 最近では、「グループウェアなどの内部情報システムを導入する自治体が増えている」と、アプリケーションビジネスにも注力していく。

 今年度は自治体ビジネスの売上高を、「前年度比2けた増を目指す」と意気込む。

 また、医療分野では300床以上ある大規模病院の8か所にオーダリングシステムを納入。今後は、300床未満の病院にも同システムのニーズが高まるとみており、「機能を絞ってパッケージ販売していく」と需要開拓を積極化させていく方針だ。
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