OVER VIEW

<OVER VIEW>オンデマンドで世界市場席巻に挑むIBM Chapter3

2004/01/19 16:18

週刊BCN 2004年01月19日vol.1023掲載

 ガースナーIBMを引き継いだIBMパルミザーノCEOは、自ら提唱した新戦略「オンデマンド」によって、自らが入社した当時、世界業界を席巻していた「偉大なIBM」復活を狙っていると、欧米アナリスト達は分析する。パルミザーノCEO自らが株主宛レターで「偉大なIBM復活」を述べているからだ。パルミザーノ戦略はガースナーIBM戦略を源流として、自らIT市場拡大を求め、ここでの大きなシェアを獲得することによって再び世界市場でのプレゼンス強化を狙っていると考えられる。(中野英嗣)

偉大なIBMを目指す、パルミザーノCEOの挑戦

■オンデマンド戦略の源流は、ガースナーIBMに

photo 2002年夏以降、米国産業界や経営誌は一斉にIBMの名実ともにトップになったサム・パルミザーノCEOに注目し始めた。パルミザーノCEOは異業種ナビスコから転じた前任のルイス・ガースナー氏とは違って、生粋のIBMマンであり、同CEOは自分が1970年代にIBMに入社した当時、全世界のコンピュータ界に君臨していたIBMへの復活を語り始めたからだ。

 米国経営誌ビジネスウィークは「新しい巨人、IBMをつくり直す(ザ・ニューブルーリメーキングIBM)」という特集を組んで、パルミザーノCEOの考え方を紹介した。年末には業界専門紙CRNが「03年に世界IT業界へ最も強い影響を与えたベンダートップとして パルミザーノ氏」を選んだ。

 パルミザーノCEOは02年IBM営業報告書株主宛レターで、「自分は30年前入社したIBMを思い出す。自分はIBMを今の世代、そして今の時代における真に偉大な企業-偉大なパートナー、偉大な投資先、偉大な雇用主-にする決意を固めた」と結んだ。これを市場はパルミザーノCEOの「偉大なIBM復活宣言」と受け止め、再びIBMが大きな売上高伸長を株主にコミットした内容だと受けとめた。

photo その後、各四半期ごとの決算発表時、IBMはパルミザーノCEOの約束通り、高い成長力を示したことで、業界はパルミザーノコミットが進展していると解釈した。ガースナーIBMはIBM事業をハード中心からソフトとITサービスへの転換に成功して、再び巨額利益を稼ぎ出すIBMに復活させた。しかしガースナー時代、IBM売上高年平均伸長率は年4%程度と低く、ITバブルで急成長したIT市場の伸びに追いつくことができなかった。

 当然、IBMの市場プレゼンスは弱くなり、このガースナーIBMの弱点を補強することが緊急課題であることはパルミザーノCEOも十分に認識していた(Figure13)。

 パルミザーノCEOの唱えたオンデマンド戦略によってIBMは再び大きな伸長を示し始めた。パルミザーノCEOの発信したオンデマンド戦略はガースナーIBM時代のeビジネスやeソーシングが源流であることは明らかだ(Figure14)。

 ガースナーCEOは当時、「ITベンダーの真のeビジネスの本流を把えるのに苦労した」と述べている。ガースナーIBMは「コンピューティングパワーをインターネットを介して顧客に届けるのがITベンダーにとっての真のeビジネスであることを発言していた。

■IT市場の新領域に、IBMの大きな成長を期待

photo パルミザーノCEOは、「コンピュータ業界のビジネスは、コンピュータを箱として売る時代から、コンピューティングパワーをITサービスの一環として顧客に提供する時代に入った」と説明した。

 ガースナー時代のeソーシングと、IBMがコンサルティング大手PwCCを買収したことで、顧客企業のビジネスプロセスを市場変動に敏捷に対応して変化するオンデマンドビジネスにトランスフォーメーション(転換)するコンサルティング機能強化によって、パルミザーノCEO提唱のオンデマンド戦略基盤が確立した。

 偉大なIBM復活を目指すパルミザーノCEOは矢継ぎ早に社内改革と新しいIBMイメージを創り出す戦略を打ち出した(Figure15、16)。

photo 社内改革ではこれまでガースナー氏1人に依存していた意思決定をトップ経営者に平等の権限を与えるプロセスへと転換した。そして、IBM社内各部門および、個人目標すべて「オンデマンド戦略」推進の1つに絞り込ませた。パルミザーノCEOは、「これからの企業戦略成功のカギは社員全員の英知を結集させることだ」と説明した。

 パルミザーノCEOはオンデマンド戦略のもたらす意義、そのビジネス機会を社内向けマニュアル「IBMアジェンダ」にまとめ、これを自ら同社幹部に説明し、全員の認識一致を求めた。IBMの新しい企業イメージづくりでは、「コンピュータのIBM」から「顧客ビジネス革新リーダー」への転身を訴える。

 オンデマンド戦略では、顧客積年の課題である「ビジネスとITの一体化」を追求することを社内に訴えた。またITサービスと一体化した顧客ビジネスの転換コンサルティングによってITベンダーの市場に新領域を加えて拡大することで、IBM成長の柱をその新領域の高シェア獲得に求めた。

■10年の長期展望をもって、オンデマンド戦略を推進

photo 「IBMのオンデマンド戦略の普及によってIT業界やユーザーのITマインドが変革し、企業システムがIBMの目論むオンデマンド環境へ完全転換するには少なくとも10年は要する」

 これは米国著名アナリスト、ザ・エンダール・グループ主幹ロブ・エンダール氏の発言だ。オンデマンド環境である新しいコンピューティング発展の系譜は、IBM資料などによると、5フェーズに分かれるだろう(Figure17)。

 IBMは03年11月、サーバーコンソリデーションからグリッドコンピューティング利用を経て、究極のITサービスである従量制料金のeソーシングであるユーティリティコンピューティングに至るロードマップを「UMI(ユニバーサルマネジメントインフラストラクチャ)」にまとめ発表した。世界IT市場の偉大なリーダー再生を目指すパルミザーノCEO独自の哲学がにじみ出ているといえよう(Figure18)。

photo パルミザーノIBMは顧客ビジネス革新を目指しながら、コンサルティングとITサービスの一体化によって高い成長力を担保することを狙っている。IT業界への顧客の期待は、ITバブル突入前とは様変わりしたからだ。顧客はビジネスと一体化する柔軟なITを求めていることがはっきりした。

 一方、ハードやソフトの価格デフレは今後も止まることは期待できない。従ってここで再び2ケタ近い成長を狙うには、ITベンダー自らがIT市場領域の拡大に挑戦しなければならず、パルミザーノIBMはその第一歩を踏み出したといえるだろう。
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