変貌する大手メーカーの販売・流通網

<変貌する大手メーカーの販売・流通網>第7回 松下電器産業 軸は量販店とのダイレクト商談

2004/05/03 20:42

週刊BCN 2004年05月03日vol.1038掲載

 松下電器産業は今年1月、2003年度(04年3月期)まで3年間実行してきた経営計画「創生21」を改め、新たに06年度までに営業利益率5%を達成目標にした中期計画「躍進21」を発表した。昨年1月には、グループ企業間の事業重複を排除するため、開発・製造・販売の一元化を目指して新組織体制をスタート。これにより、パソコンや周辺機器、AV(映像・音響)機器の販売体制はよりスピーディーになったという。コンシューマ市場のパソコン販売では、パソコン量販店とのダイレクト商談が全販売台数の大半を占める。パソコンは3か月程度で価格割れする前の1か月以内にすべて売り切り、量販店などに在庫を抱えない戦略を進める。これにより年間100万台と言われるB5サイズ以下のノートパソコン市場で、トップシェアを狙う考えだ。(谷畑良胤●取材/文)

パソコンの開発・製販を一元化

■国内は製販一貫の体制、2社がコンシューマ市場をカバー

 松下電器製パソコンや周辺機器、AV(映像・音響)機器などコンシューマ向け製品の開発・製造は、昨年6月に社内分社で誕生した「パナソニックAVCネットワークス社」が担っている。また、国内の民生市場のAVC商品の営業部門をパナソニックマーケティング本部が行い、AVCネットワーク社と連携して販売を進めている。このうち、パソコン販売に関しては、法人・企業、官公庁向けは「ITプロダクツ事業部」が担当。量販店向け販売は、一部をパソコン代理店経由で流通させているものの、ほとんどが、「パナソニックマーケティング本部」が量販店とダイレクトに商談を行い拡販を進めている。

 パナソニックマーケティング本部が量販店とダイレクトに商談した製品は、同本部と連携する販売会社の「松下コンシューマエレクトロニクス(松下CE)」と「松下ライフエレクトロニクス(松下LEC)」の社内分社2社が、全国のコンシューマ市場の販売網に流通させ、出荷、在庫、店舗サポートなどを管理している。

 2社のうち、松下CEは、主に全国展開する広域家電量販店に対するサポートを実施。松下LECは、地域型量販店と全国1万9000店の松下の「系列専門店」と呼ばれる「ナショナルショップ」に対する商品管理やサポートを行っている。ここ1-2年の“デジタル家電ブーム”に乗り、系列専門店が地域のイベント会場を借りて実施する「合同展示会」が人気を博しているが、このイベントは系列専門店が企画し、松下CEが支援しているものだ。

■レッツノートに一本化、生産は神戸工場で

 松下は2002年春に光学式トラックボールを搭載した看板シリーズ「レッツノート」のコンセプトを一新。「軽量・長時間・堅牢」に拘ったジャストB5サイズのモバイルノートパソコン「レッツノートライト」を量販店向けに、基本仕様も同様の法人・ネット販売向け「レッツノートプロ」を発売した。「トラックボールを愛する根強いファン層も存在したが、このコンセプト一新は、松下の大きな転換期にだった」(野崎薫・パナソニックマーケティング本部PCDグループ法人営業チームチームリーダー)と、振り返る。

 また、同時に01年末まで販売していたTFTカラー液晶を搭載したAVパソコン「人(ヒト)シリーズ」の生産を中止。パソコン販売は、「世界一の軽量・長時間・堅牢」を前面に打ち出して「ビジネスモバイル」に特化したレッツノートに一本化した。

 パソコン販売を一本化したことから、生産拠点も兵庫県神戸市の松下電器工場で一貫した生産体制に切り替えた。「他のパソコンメーカーが生産拠点を海外に移転するなか、あえて部品をすべて国内で調達し、1人の作業員が製品を仕上げる『セル生産方式』を採用。自社技術による自社生産にこだわった」(野崎チームリーダー)と語り、ダイレクト商談やネット販売で受注した案件が、申込みから3日以内で顧客の手元に届くスピーディな製販システムを構築した。

 昨年度(04年3月期)、レッツノートの販売台数が全シリーズで20万台を突破した。今年度は4月21日、夏商戦向けに最長駆動時間9時間を実現した「レッツノートCF-R3」などの5機種の新製品を発表、昨年より1か月以上早い5月末から発売する。発表当日にITプロダクツ事業部の伊藤好夫事業部長は、「当社のレッツノートはモバイルノートでビジネス仕様のため、AVパソコンなどとは市場が異なる。そのため、他社のノートパソコンと競合しない」とし、今年度のレッツノートの出荷目標を前年度比50%増の30万台と見込んでいる。

 量販店やネット向けパソコン販売は、3か月間を過ぎると実売価格が急激に低下する。「粗利益率が高い2か月以内に、他社より早く売り切るのが当社の戦略」(野崎チームリーダー)として、新製品発売前は、販売予測だけでなく、店頭にコンセプトパソコンと周辺機器を陳列するプロモーション活動、販売会社の店舗リサーチにより“見込み客”を確保するなど、事前戦略を周到に行って「一気に売る」ことに注力している。

 PCDグループは今後、レッツノートが狙うモバイルパソコン市場で、現在10%弱のシェアをトップに引き上げるのが目標だ。

■企業向けはPSSMなど2社が担当、新たな布石の計画も

 量販店向けパソコン販売ではこのほか、大手ディストリビュータやシステム販売会社経由のほか、その2次店などを通じた販売のしている。

 一方、企業向けパソコン販売は、システム事業を担当する「パナソニックシステムソリューションズ社」を中心に、企業への直販及び大手ディストリビュータを生かした流通ルートもある。

 松下電器グループは、03年1月に新組織を発足させて以来、同社独自のデジタルネットワーク技術・関連製品の強みを生かし、特化分野に経営資源を集中してきた。今年度は次のステップへの布石を打つべく、パソコン販売で積極的な展開をしていく。
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