WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第202回 IBM、ハード事業強化

2004/05/17 16:04

週刊BCN 2004年05月17日vol.1039掲載

 IBMは自社プロプライエタリ(専有)技術によるプロセッサ「Power」のオープンソース化を促進して、多くの用途で市場を拡大する「オープン・コラボレーション・モデル」を導入することを4月上旬ニューヨークで発表した。Powerはアップルコンピュータ「iMac」などに採用されているPowerPCプロセッサと同一アーキテクチャのRISCチップだ。RISCではサン・マイクロシステムズ「Sparc」、ヒューレットパッカード(HP)の「PA-RISC」も存在するが、サン・マイクロシステムズ凋落で開発力は低下し、HPもPA-RISCのフェーズアウトを表明し、インテル64ビットのItanium系に移行することをすでに発表している。

オープン化で市場拡大狙う

 こうなると、IBMのPowerは継続する唯一のRISCとして、UNIXなどハイエンドサーバーで大きなシェアを獲得できるチャンスが生まれる。IBMは自社RISC技術が世界市場でデファクトスタンダードの地位が獲得できると期待し、LinuxやJavaと同じようなオープンスタンダード戦略の採り入れを決断した。IBMは、オープンコラボレーションモデルでPowerを採用するベンダーやISV(独立系ソフトベンダー)と、需要家の要求する仕様を取り込む共同開発作業を行う。「量産もプロセッサ需要家や半導体ファンドリに任せること、あるいは自社のニューヨーク郊外のオンデマンドタイプで運営する半導体工場でも引き受ける」と、IBM技術・製造担当のニコラス・ドノフリオ副社長は語る。

 Powerは1990年に自社UNIXサーバー用として開発してから、パソコン向けにはPowerPCを、サーバー用途でPower4に続いて、04年にはPower5の量産が始まる。また、Powerはブレードサーバーにも採用されている。さらに、IBMがPowerアーキテクチャで狙う大市場の1つは、AV(音響・映像)機器、ゲーム機、携帯端末などエンベデッド用途だ。オープンコラボレーションの第1弾としてIBMは、ソニーに技術を公開した。同時にIBMはソニー、東芝とともに次世代AVの基盤プロセッサと期待される「Cell」を共同開発しており、ソニーはAV機器や次世代プレイステーションにはIBMプロセッサを採用する。

 また、マイクロソフトもXbox次世代には、インテルに代えてPowerPC系プロセッサを搭載するので、エンターテインメント市場で競合するソニーとマイクロソフトがともにIBMアーキテクチャを搭載することになった。IBMは自社技術で部品も開発する垂直統合の典型モデルであり、これまではプロプライエタリ技術は公開しなかった。一方、わが国の有力AVベンダーの松下電器産業、シャープなども典型的垂直統合ベンダーである。しかし、シャープなどは中国・韓国ベンダーの追随を振り切るため、自社の垂直統合を一歩進めて「ブラックボックスモデル」へ移行している。この動きに対して、IBMの自社技術公開は対照的戦略だ。IBMは再度ハード事業強化を打ち出しており、今回のオープン化戦略で、自社ハードアーキテクチャ普及を狙い始めたといえよう。(中野英嗣●文)

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