情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第12回 東京都荒川区 住基カードへのアプリ搭載も積極的に

2004/07/26 20:43

週刊BCN 2004年07月26日vol.1049掲載

 行政サービス向上の一環として、コールセンターの導入が注目されている。札幌市が2003年7月から本格的にコールセンターを取り入れ、住民からの問い合わせにワンストップサービスの提供を始めている。東京都荒川区は、コールセンターを設置するなかで、より一層の住民サービス向上を狙って、IPテレビ電話の導入を決め、7月から試行を開始した。IPテレビ電話を活用することで、住民の問い合わせに対して担当者の“顔”が見えるようになる。高齢者世帯の多い荒川区だが、パソコン教育も熱心に進めており、ITをベースにした開かれた行政の構築を目指している。(川井直樹)

問い合わせにIPテレビ電話導入 ITの活用でサービス向上へ

■区と区民の距離を縮めるために

 2002年度の補正予算事業で総務省が募集した「地域情報化モデル事業」に対し、荒川区は「地域ポータルサイトの構築」で手を挙げ、1500万円の交付金を獲得した。その1500万円を使って、荒川区IT推進協議会が主宰して地域ポータル「荒川ゆうネット」が開設された。

 「荒川区の公式ウェブページとバッティングする内容も多いが、警察や消防など緊急情報も随時更新して掲載しており、より住民に役立つように留意した」(竹下克・荒川区政策経営部IT推進担当課長)という。区内で発生した事件や火災などの緊急情報をいち早く発信しており、区民が被害にあわないようにという配慮が見える。そのほかにも、グルメやショッピングなど、決して区役所のホームページでは扱えないような事柄も検索することができる。

 そうした情報を発信するポータルサイトを作った背景には、「行政の発信する情報はどうしても〝堅い〟というイメージがある。区民にとって親しみやすく、また荒川区を訪れる観光客にも役立つ情報を」(同)という理由がある。

 荒川区のIT活用には、この堅さを排除し、区と区民の距離を縮めようという努力が垣間見える。その1つがIP電話を使ったコールセンターの設置だ。

 コールセンターそのものが住民サービス向上に効果的なのは、いち早くサービスに取り入れた札幌市などが証明している。しかし、荒川区はさらに一歩進めてIPテレビ電話の活用に乗り出した。

 「テレビ電話なら相手の顔が見えてより安心感を高められる。難しい問い合わせもし易いのではないか」(野平雄一郎・IT推進担当係長)という。また、文書共有機能を活用して、「申請などの問い合わせに対しても、実際の書類を示しながら記入方法などを答えることができる」(同)ことで、確実にサービスの向上になるとしている。

 ただ、テレビ電話となると、専用の電話機が必要になる。多くの住民がそのために買い揃えるわけにはいかない。そこで、パソコンがあれば対応できるIPテレビ電話を活用することにした。マイクの付いたパソコンならそのまま活用できるし、後付けでマイクやパソコンカメラを接続すれば、区役所の職員に自分の画像も送ることができる。

 幸い、荒川区は99年から04年3月まで、区内でブロードバンド回線を設置する個人に3万円、事業者に5万円の補助を交付しており、ネットワーク環境の整備は進んでいる。
 7月から、まず住環境整備課、保健所、子ども家庭支援センターの3セクションで導入を開始した。「これら3つのセクションは問い合わせも多いし、特に育児支援などにはIPテレビ電話を使って悩みを聞いてあげることもできるだろう」(竹下課長)と効果を期待している。

 IPテレビ電話を使ったコールセンターサービスは、当面は庁内にサーバーを置いて運用する予定。「来年の1月以降にサービスを他の課にも拡大する予定だが、その際にはASP方式を導入する」(野平係長)ことを計画している。次の課題は、職員と面と向かって話せるのはいいが、業務時間内に限られるというウィークポイントをどうするか。職員の業務時間を変更するか、開庁時間以外は何らかの音声だけによるコールセンターを設置するか、サービス充実に課題は残る。

■“あらかわMyカード”の普及図る

 全国的に住民基本台帳ネットワークカード(住基カード)の人気はいまひとつ。住民票の申請にしか使えないシングルアプリケーションのカードでは、需要は広がらない。総務省は、住基カードへのアプリケーション搭載を推奨しているが、条例制定と議会決議が必要とあっては手続きばかりが煩雑で普及は進まない。第一、セキュリティ面の不安がマスコミで喧伝されただけに不安もつきまとうし、「住基カード」という名称もその懸念を煽る。

 荒川区はICカードに「あらかわMyカード」という名前をつけて普及を目指している。このカード、実は住基カードである。「荒川区でも他の自治体と同じように住基カードの発行枚数は少ない。しかし、何とかアプリケーションを載せて普及させたい」と竹下課長は言う。

 そこで今検討しているのが、住基カードに金額チャージ機能を搭載し、区営の遊園地である「あらかわ遊園」の入場料や乗り物券などに利用できるシステム。「赤字の遊園地に人を呼び込める」という期待もあるが、子供連れなど区民の利用が多いため、住基カード普及のきっかけにもなる。

 ただ、竹下課長も住基カードについては、「役所のサービスを増やしても限界がある。インセンティブをつけられる民間のアプリケーションの普及が望ましい」という。少なくとも荒川区では、民間アプリケーションの搭載には前向きだという。
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