情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第36回 福岡県 J2EEを開発基盤に

2005/01/24 20:43

週刊BCN 2005年01月24日vol.1073掲載

 福岡県はJ2EEを基盤として県内市町村の電子自治体システムの構築に力を入れている。J2EEはJavaの業務システム向けのオープンなプラットフォーム。これを開発基盤とすることで、特定ベンダーに依存しないシステム構築を目指す。(安藤章司)

電子自治体システム構築へ 開発効率の向上とコスト削減目指す

■複数の市町村でアプリケーション共通化

 福岡県は、佐賀、熊本、岩手、宮城、静岡、和歌山、徳島の7県と新潟県上越市、埼玉県鳩ヶ谷市の2市の計9団体と共同で、2004年11月5日に「電子自治体アプリケーション・シェア推進協議会」を立ち上げ、J2EEを基盤とした開発プラットフォームの普及に努めている。

 電子自治体化やオープン化による業務アプリケーションの新規開発が相次ぐなか、開発効率の向上とコスト削減が求められている。福岡県などは、こうした現状を踏まえた上で、Javaの業務システム向けプラットフォームのJ2EEを標準基盤と位置づけることで、開発効率の向上とコスト削減を目指す。

 すでに県内市町村向けの電子申請システムや文書管理システムの共同利用の開発ではJ2EE基盤を採用する方向で動いている。「福岡県が提案するJ2EE基盤の利用に対して市町村の反応は上々」(田中祐二・福岡県企画振興部高度情報政策課電子自治体推進班企画主幹)と普及に手応えを感じている。

 J2EEを基盤としたプラットフォームの共通化を進めれば、将来は県や市町村が開発する業務アプリケーションを共有できる可能性が高まる。市町村は財務会計や旅費管理、人事給与などの各システムを個別で開発しているケースが多く、その機能の多くが重複していた。今後、J2EEという共通プラットフォーム上で業務アプリケーションを開発すれば、複数の市町村で共有することも可能だ。

 1つの業務アプリケーションを複数の市町村で使うためには、市町村ごとに異なる業務を共通化するなどの業務改革が必要になる。この業務プロセスを見直し、標準化を進める過程で、削除できる業務プロセスが浮き彫りになり「業務の合理化にもつながる」(武内功・福岡県企画振興部高度情報政策課企画主幹)と福岡県は期待する。

 J2EE基盤上では、特定ベンダーや特定製品への依存も排除する。これまで業務アプリケーションを開発したベンダーが、保守運用、業務の変化に伴う改修に至るまで一貫して受注するケースが見られた。だが、J2EE基盤上で開発する業務アプリケーションについては、開発を手がけたベンダー以外でも、保守運用や改修が行えるよう情報公開を開発元のベンダーに義務づける方針だ。

 同時に、特定のハードウェアやミドルウェアに依存する業務アプリケーションの開発手法は極力避けるよう求めていく方針で、これにより特定製品への依存を排除していく。仮に特定製品に依存する記述が避けられないケースでは、その記述内容を公開することで、開発元以外のベンダーが保守運用や改修を引き継げるようにする。

 こうした基準に基づいて開発したソフトウェア部品を電子自治体アプリケーション・シェア推進協議会に参加する他の自治体や県内市町村に提供することで、部品の再利用を促進する。部品を再利用できるようになれば、似たような業務アプリケーションを重複して開発する無駄がなくなり、コスト削減に結びつく。

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■福岡市や北九州市は独自開発

 福岡県がこれまで発注した業務アプリケーションは、総合力で勝る大手ベンダーが受注するケースが多かった。大手ベンダーが開発した特定ハードウェアや特定製品に依存するケースも多く、「福岡県内のシステムインテグレータは、たとえ実力があっても参入しづらい環境にあった」(村里景喜・福岡県企画振興部高度情報政策課企画主幹)と振り返る。だが、今後はJ2EE共通基盤のオープンなルールに則って開発するため、実力さえ伴えば「誰でも参加できるようになる」(同)と話す。

 仮に大型のシステム開発は総合力で勝る大手ベンダーが受注したとしても、その後の保守運用や改修は地場のシステムインテグレータが受注できるようにするなど、開発と保守運用、改修をそれぞれ異なるベンダーに発注することも視野に入れる。過去の事例では、業務アプリケーションがオープンでなかったため、保守運用、改修は「随意契約」となり、大手ベンダーへの依存度が高いケースが多かった。

 一方、電子自治体の実現に欠かせない電子申請システムや文書管理システムについても、着々と準備が進んでいる。福岡県では、04年4月から県単独で電子申請・文書管理システムを立ち上げており、今年度末までには58件の申請・届出に対応する。今後は、県の電子申請・文書管理システムを基盤として、市町村向けの電子申請の共同利用システムの開発に着手する。

 県内96市町村(05年1月18日現在)のうち、福岡市や北九州市などの政令指定都市や一部市町村は独自に電子申請システムを開発する意向を示している。しかし、その他約70の市町村は県の電子申請・文書管理システム基盤をベースに市町村向けの電子申請・文書管理システムを来年度中をめどに開発に着手する。現在の計画では、06年4月に共同利用方式による文書管理システムを立ち上げ、06年度中には参加市町村による電子申請・届出の受付サービスを始める方向で準備を進めている。

 原則として福岡県などが推奨するJ2EEプラットフォームをベースとして市町村向けの電子申請・文書管理を開発する方針で、開発効率の向上とコスト削減に努める。
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