e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>31.ユビキタスネット社会と環境問題

2005/04/11 16:18

週刊BCN 2005年04月11日vol.1084掲載

 「ユビキタスネット社会の進展が、環境負荷低減にも大きく貢献する」──総務省は、ブロードバンドの普及やIT化の進展によるCO2削減効果を分析した報告書を公表した。2010年のCO2排出量を、00年を基準にして2650万トン、2.0%削減できるとの試算結果が得られた。今後は環境対策の視点からもユビキタスネット社会を加速していく必要が高まりそうだ。(ジャーナリスト 千葉利宏)

 今年2月に京都議定書が発効し、日本もCO2排出量削減の目標達成に向けた取り組みが急がれている。日本が約束した目標は、基準年90年度のCO2排出量を6%、7400万トン削減するもの。しかし、02年度の時点では逆に基準年から9400万トン増加。約束期限の08-12年までに1億6800万トンを削減しなければならない厳しい状況にあり、政府も京都議定書目標達成計画(案)を策定して先月30日からパブリックコメントにかけているところだ。

 CO2削減は、産業、運輸、業務その他、家庭の4部門に分けて、部門ごとに具体策が検討されてきた。うち、産業部門の排出量は基準年からほぼ横ばいで推移してきたが、残り3部門は増加傾向にある。特に2000年代に入り、家庭部門はインターネットやデジタル家電の普及が大きく増加し、IT化の進展がCO2削減に対してはむしろ障害になっているとの見方が一部に出始めている。

 総務省では昨年5月、2010年にユビキタスネット社会の実現をめざす「u-Japan構想」を表明。12月にはICT政策の全体像を示した「u-Japan政策」を策定して、強力に推進しようとしている矢先に、環境政策からブレーキがかかる懸念が出てきたわけだ。これまでエネルギー、環境の両面で中立な立場にあった総務省でも、昨年12月に経済産業省、環境省からオブザーバー、イオンや日本通運などユーザー企業から委員を入れて調査研究会を設置、CO2への影響分析を行ってきた。

「ユビキタスネット社会では、人が意識しなくても、CO2の削減が図られていくという特徴がある」(出口岳人・情報通信政策局情報流通振興課課長補佐)。従来は、人が意識して電気のスイッチをこまめに切ったり、温度を調整したりする対策も多かったが、ユビキタスネット社会では機器ごとにエネルギー使用量をモニタリングし、センサー技術によって省エネが自動的に進む仕組みも可能になる。政府の京都議定書目標達成計画(案)にもビルエネルギー管理システム(BEMS)や家庭用エネルギー管理システム(HEMS)の導入が盛り込まれ、環境分野でのICT活用が進もうとしている。

 さらにユビキタスネット社会では、社会・経済構造の変化に伴って自然と環境負荷低減が進んでいく効果も期待できる。これまでは建物の断熱化、自動車の燃費向上、電気機器の省エネ化など個別アイテムごとの対策が中心だったが、テレワークやITS(高度道路交通システム)の普及で通勤量や交通渋滞が減少し、ペーパーレス化やコンテンツのオンライン配信で紙やCDメディアなどが削減されていく。SCM(サプライチェーンマネジメント)や電子商取引の普及で生産・物流が効率化され、産業構造も重厚長大産業からの転換が進めば、CO2も削減されていくというシナリオだ。

 果たして2010年にテレワークやITSなどがどこまで普及しているか。報告書ではできるだけ無理のない予測値を設定したが、それでも京都議定書の削減目標量の約16%に相当する大きな効果が見込めるとの結果が得られた。総務省では、ICTによって環境負荷低減を図るという新しい発想での施策を積極的に展開していくとともに、今年5月に開催予定のWSIS(世界情報社会サミット)の東京ユビキタス会議などで国際的連携を呼びかけていくことにしている。
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