コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第16回 岡山県

2005/07/25 20:42

週刊BCN 2005年07月25日vol.1098掲載

 2002年度に県独自の「おかやまIT特別経済区」を創設した岡山県。新たに参入や起業するIT関連企業に補助や融資を行う内容だが、この効果もあってか、岡山市のIT関連企業数は、政令指定市に次ぐ水準にまで増えてきている。一方で、既存の情報サービス産業では、経験を踏まえ、「地域にとっての情報サービス産業」を考える動きも見られる。(光と影PART IX・特別取材班)

人材やITベンチャーを育成し「地域にとっての情報サービス産業」へ

■“県内を固める”地場の老舗企業

photo IT関連産業の集積促進の意味から岡山県が力を入れているのが、人材育成。石井茂・産業労働部新産業推進課IT産業推進班総括参事は、「岡山大学や岡山県立大学、岡山理科大学など、人材確保は可能。さらに企業の人材のスキルアップも図りたい」と語る。このための「e-人づくり推進事業」では、IPv6関連や上級ネットワーク、セキュリティなどをテーマに、実習併用型の実践セミナーを開催。延べ人数で年間500人以上が参加している。

 一方、ITベンチャーの育成に関しては、新たな取り組みを進めている。ホームページの作成など、県庁各部局が個別に発注する小規模な案件(300万円未満)については、創業10年以内の県内ITベンチャーに優先発注するというもの。約50社が登録に応募しており、間もなくスタートする。ただし、強制力はなく、県外事業者を排除するものではない。競争政策上は意見が分かれるところかもしれないが、産業育成という目的も持つ行政の限定的な施策として、積極的に評価していいものと考えられる。

 振興施策が整備されているベンチャーに対し、県内の老舗情報産業は、培ってきた強みを生かす形で、収益性の向上に取り組んでいる。

 1970年代に事務機器販売からスタートしたピコシステム(岡崎清社長)は、岡山県内を固めることを当面の目標に置いている。もちろん、東京や大阪でも事業は展開している。中野達也常務は、「大阪の場合、進出して2年だが、顧客企業の規模も違い、商売としては面白い」としながらも、「岡山から派遣した社員はいずれ岡山に帰ってくる。そのためには、やはり岡山で伸びていく企業にならないと」と言う。東京の場合も、2年後、3年後にその経験を岡山のビジネスに生かすことが目的と割り切っている。県内外の売上構成比率は、県内7に対し県外が3。成長性からは県外を伸ばす方が簡単かもしれないが、「比率は変えたくない」(中野常務)と、県内営業に拍車をかける。

 販売管理システムで基盤を築いてきた同社だが、今年からは新たに専門チームを編成し、繊維や鉄鋼向けの生産管理システムを手掛けている。「繊維向けは、オフコン時代に実績を上げていてノウハウはある」(同)。これをパソコンベースでパッケージ化した。一方の鉄鋼向けは、これまで攻めていない分野で、裾野の広いことも魅力だ。「6月下旬に展示会を開催したが、盛況で、ユーザー側でもシステム更新を考えている様子。販売管理システムに次ぐ柱にしたい」(同)考え。その販売管理システムも、06年からは、携帯電話などを組み合わせ、ウェブベースの新たなシステムに取り組み、新たな需要開拓を進める。

 同社の岡山を固める戦略の根幹は、「商売のしづらさ」にある。「岡山の企業は入り込むまでに苦労するが、一度入ると浮気はしない。大手ベンダーが相手であっても、守りを固めれば怖いとは思わない」(同)という。また、県内ITベンチャーが頑張っていることも刺激になっているようで、相乗効果が出てきているといえそうだ。

■専門分野に特化し「難局を乗り切る」

 県北部の津山市を基盤とするソフィア(全本親民社長)は、自治体と医療に特化することで、大手ベンダーからの受託開発分野におけるプレゼンスを高める戦略を採っている。「津山には仕事がなく、東京や大阪から取ってくるしかない。ただし、何でもかんでもやっていては駄目。特化戦略による技術者が売り物」とは、同社の田淵公士・取締役システム営業部長。

 「創業に際しても、産業基盤のない津山市で雇用の場を提供することを1つの目的」(全本和由専務)にしており、受託開発は「当を得た選択」でもあった。中途採用は困難な土地柄であり、時間はかかるが新卒採用から教育を施す。特化している分、専門性は増す。鳥取市にも支店を置くが、津山同様に産業基盤が小さいだけに、優秀な人材を採用できている。

 その同社が04年度から力を入れているのが「ローコストセンター(仮称)構想」。「プログラミングなどの開発を経験していない人間がシステムエンジニア(SE)にはなれない」との思いからスタートしたもので、いわばオフショア開発へのアンチテーゼだ。「海外に持っていかれるぐらいなら、安くても受ける。当社にとっては、新人を育てられるし、ロットがまとまれば、採算も向上する」(田淵取締役)。また、「コスト削減だけを目的にオフショア化すれば、人材が育たず、日本国内にいなくなる。大手ベンダーとも対応策を投げ合いながらやっていけばうまくいく」(全本専務)としている。実際、一部の大手ベンダーには理解され、発注も出てきている。毎年20人程度の新卒者が入社してきており、教育という意味合いからも、ここ数年で道筋をつけていく考えだ。

 両備グループのリオス(松田久社長)も、公共、移動体、ドキュメントの3部門への特化を謳っている。オープン化を見越し、新規顧客獲得と事業領域拡大を目的に、両備システムズから切り出した会社が母体。しかし、オリジナル商品開発と受託開発という、ベクトルもスピードも違う人材の混在が非効率を生んだ。04年4月に再び2社に分割し、オリジナル商品開発の中から有望な3分野に特化することになったのがリオスだ。バスやトラックなどの運行の総合的な効率化のための移動体分野は、環境対応の面からも需要が高まってきている。

 設計はリオスで行い、製造は分割した両備システムソリューションズに委託している。構図は変わっていないが、「切り分けたことで、互いにやり易くなったのは事実」(小林亨・執行役員常務)という。事業の特性と人的資源の構成がマッチしてこそ、効率的なオペレーションが可能になり、収益につながるということのようだ。市場環境の変化に直面すると、「難局を乗り切るためには、こうあらねばならない」と固定観念を抱きがち。しかし、地域に根差す企業にとっては、「シンプルな発想」や「角度を変えたものの見方」というものも、重要な要素なのかもしれない。
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