視点

パソコンにとってかわる新しい製品を

2005/08/01 16:41

週刊BCN 2005年08月01日vol.1099掲載

 ようやくというかやっとというか、パソコンに取って代わる新しい製品の可能性が見えてきたようだ。ながらく粗悪品に悶々としてきた視点子(技術者の端くれ)にとっても、世の中に対する恩返しにつながる絶好の機会だ。

 肥大で粗悪な品質をてんこ盛りにしたいわゆるパソコンは、生産過剰・供給過剰気味で、利用者は愛想を尽かし始めてきた。技術的にも、利用者が求める機能をパソコンの半値8掛け5割引くらいで、代替商品としてまとめ上げる素地が固まったようだ。

 この新市場の候補は、例えば次のような製品の延長上にあるであろう。まずは1989年に貿易赤字を理由に米国通商代表部につぶされたトロンマシン(情報家電分野ではすでに世界を席巻しているらしいが)。それから、いわゆるPDA(携帯情報端末)。例えばLinuxで動くザウルス。いわずとしれた携帯電話。それからゲーム機。またインターネットテレビ。あるいはLinuxマシン。

 その特徴は、小さい、軽い、簡単で単純、安全かつ信頼がおける、みだりに買い替える必要がないところにあるだろう。これらは肥大粗悪なそんじょそこらのパソコンの95%以上の機能を、先ほどの値立てで実現できる。

 世間に対する恩返しとは、ソフトウェア工学を例にとると、次のような事情である。ソフトウェア工学研究会を情報処理学会に立ち上げたのは4半世紀前だったが、以来ソフトウェア工学の新しい知見は遅々として進展しなかった。既存のハードウェアやソフトウェアにかまけて、ソフトウェアづくりの原点をないがしろにしてきたのだった。

 ソフトウェアづくりでは、第1に利用者の必要性の理解、第2に利用者の環境ないし問題領域の分析、そして最後に手段としてのシステムやソフトウェアやアーキテクチャづくりが課題になる。過去4半世紀のソフトウェア工学は、第3の領域だけをその専門分野だと錯覚してきたわけだ。

 第1と第2の領域を学問として課題に挙げるようになったのは、ようやくここ数年のことである。これには、欧州の第1級の専門家の知見を待たなければならなかった。理論はなんといっても欧州が強い。米国は二番煎じの理論輸入国という構図は40年変わっていない。わが国には、トロンマシン、PDA、携帯電話、ゲーム機、インターネットテレビがあるところが心強い。志ある技術者の健闘を期待したい。
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