視点

重要度が増す組み込みソフトウェア

2006/01/23 16:41

週刊BCN 2006年01月23日vol.1122掲載

 年が改まるといつも新たな期待が膨らむ。昨年から好転の兆しを見せ始めた景気が、今年は本物になってこのまま安定した上昇気流に乗ってほしいという期待は、各界共通のものだろう。

 景気を支える主要な産業の1つは自動車を頂点とする製造業である。ここから生み出される製品は、機能、性能、品質、利便性、経済性など総合的な完成度の高さの点で世界から高い評価を受けている。

 この高い完成度の実現に大きく寄与しているのが組み込みソフトウェアである。いまの工業製品には必ずといっていいほど制御のためにマイクロコンピュータが使われており、しかも、その個数は高機能な製品になるほど増え、例えば自動車では1台当たり70個にも及ぶといわれている。このマイクロコンピュータに搭載されて、さまざまな働きをするのが組み込みソフトウェアである。

 もし、組み込みソフトウェアを使わないとしたら、複雑な機能の実現は困難だし、仮にできたとしても膨大なコストがかかるはずである。工業製品の組み込みソフトウェアへの依存度はかなり高く、製品によっては価格の3─4割を占めるともいわれている。

 このように重要な役割を担っている組み込みソフトウェアの生産高は2.4兆円、この分野で働く技術者は17万5000人だそうだ。しかし、さらに7万人が足りないと推定されている。

 組み込みソフトウェア産業の大きな課題の1つは人材不足である。組み込みソフトウェアはビジネスソフトウェアと違って、その開発にはハードウェアも含む高度な知識が必要なほか、実行時間や動作環境に厳しい制約があるなど、高い技術水準が要求される。だから人材育成が難しい。日本の大学でソフトウェア技術者を本格的に育成しているところは少ないが、組み込みソフトウェア技術者となると皆無に近い。この分野の人材育成は焦眉の急である。

 組み込みソフトウェアのもう1つの課題は品質向上である。自動車や高度な医療機器などでは、組み込みソフトウェアの不具合が人命に関わることもある。携帯電話でのトラブルは社会的な影響が大きい。

 製造業は発展途上国の追い上げが厳しい。しかし、高度な組み込みソフトウェアを駆使した付加価値の高い工業製品では、まだまだ競争力はある。これを維持するには、組み込みソフトウェアに関して常に最先端の技術水準を保ち続けなければならない。
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