コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第56回 熊本県

2006/05/22 20:42

週刊BCN 2006年05月22日vol.1138掲載

 住民ニーズを汲みとり特定分野で地域密着型のサービスを展開する地場中小SIerの活躍が目立つ熊本県。規模は小さくとも社会福祉法人向けソフトに特化したり、宿泊施設の検索予約サイトを持つなど、個性的でユニークな活動を続けている。(光と影PART IX・特別取材班)

地域密着で中小SIerが躍進 目立つ個性的でユニークな活動

■住民ニーズを汲みとり独自展開

 熊本県では総合情報通信高度化計画「くまもとユニバーサルITプラン」に基づいて県や市町村への電子申請手続きや障害がある人の自立支援への取り組みを強化している。

 しかし、自治体電子化の企業サイドの担い手は隣接する福岡県に拠点を持つ大手ベンダーにほぼ委ねられ、地場SIerでは総合行政情報システムを自社開発しているRKKコンピューターサービス1社だけが孤軍奮闘している状態だ。

 その一方で、住民ニーズを汲みとり、特定分野で地域密着型のサービスを展開する地場SIerの活躍が目立っている。

 1998年設立のプロサポート(熊本市)は、社会福祉法人の経営支援ソフトに特化したユニークな企業。内村忠生社長は過去20年間、建設業のシステム開発に携わり、その間、財務・経理、受発注、積算、CAD、施工図などあらゆるシステムを構築してきた経歴がある。

 ところが、ふとしたきっかけで社会福祉法人の経営支援に参入したのを機に、この仕事の面白さと社会的意義に魅了され、01年からはもっぱらこの分野にリソースを注ぎ込んできた。

 同社がとりわけ力を入れているのはエイデル研究所とアルファシステムが共同開発した「E式考課・昇給管理システム」。これは社会福祉法人施設においてもっとも重要な資源である人の育成、すなわち人事管理の計画、構築、定着を推進するソフト(=コンサルティング)を提供するというものだ。

 これまでに、プロサポートは九州地区で60法人、200を超える施設に納入実績を持っている。

 「社会福祉法人や介護施設における人事管理は、一般的な企業の人事労務管理と違って人が人にサービスするという特異な事業の中で、いかにサービスの品質を高めるための人材を育成し、かつ利用者と職員の満足度を高めるかにある。この分野にのめり込んだのは、人が人として豊かに暮らせる社会をサポートするためにコンピュータができることは何か、という原点を大切にしたかったから」と内村社長。

 そうした思いが高じて、障害者が経済的に自立できるような就労支援を目指してNPOの「グリーン・ピー・シー」を立ち上げたほどの熱血漢でもある。

 旧電電公社の工事会社として設立された西日本通信建設(現西日本システム建設)を母体とし、そのソフトウェア技術部門が84年に分離独立して発足したのがシステムニシツウ(熊本市)である。

 当然のことながらNTTグループを中心とする受託開発に軸足を置いて発展、現在でもNTT西日本、NTTデータ九州、NTTドコモ九州などがメインクライアント。もちろん、売上高の構成比としてはもっとも高い。

■民需開拓はスピードと柔軟性に

 システムニシツウのシステム販売比率は、NTT以外の民需が次第に上昇している。同社はオービックビジネスコンサルタント(OBC)のカスタマイズ認定企業でもあり、財務会計の勘定奉行や販売仕入管理・在庫管理の商奉行、蔵奉行などの販売に力を入れている。福田征夫システム営業部長によれば、「OBCと同行営業するなかで、カスタマイズ需要があった際には当社が担当する」という営業形態が多く、沖縄を含めて九州全域を対象に拡販に努めている。

 最近では中小企業におけるリプレース需要も多く、旧来の会計管理・販売管理システムのリプレースに当たって人事・給与・出退勤を含めた新ERPパッケージを構築するケースも増えている。まだ、親会社を含めたNTTグループからの受注額には届かないものの、収益の二本柱と呼べるほどに成長したことから今後への期待も大きい。

 ただし、課題も残されている。長年NTTグループ向けの業務がメインだった関係から、安全と確実を重視するあまり冒険を好まない社風である。自らもNTT出身の福田部長は、「一般企業ではスピードを重視するためにシステムを構築しながら仕様固めを行うというケースも発生する。スピード重視の顧客に折り合っていけるだけの柔軟性を持つことが、今後の売り上げを左右する」と、民需開拓に檄を飛ばす。

 NTTやNTTドコモの代理店として通信機器、携帯電話、コンピュータの販売と保守およびソフト開発を行っているオーエー通信サービスは、100%子会社のナバックを通してホテル・旅館トータルシステムの企画開発、販売を手がけてきた。ホテルトータルシステムは客室数に応じて6タイプ。いずれもインターネット予約管理システムと顧客管理・料金精算など各種機能を連動させたもので、累計で1200か所(昨年度だけで150か所)の宿泊施設に納入している。ナバックは宿泊施設の検索予約サイトの「やどかり」を自前で持っており、地場SIerでありながら提供しているサービスの知名度は全国区並みというユニークな企業だ。

 予約サイトの「やどかり」と、宿の予約システムを連携させることで、自社のネットビジネスを拡大するだけでなく、導入企業にも宿泊客を呼び込むことができる。

 本体のオーエー通信サービスがシステム開発に乗り出したのは5年前。歴史は浅いが今年度からはNTT関連のiアプリやウェブアプリの受託開発に携わっている。また、ビットストロング(東京都港区)と代理店契約を結んでHDD内容の保護・復旧を行う「システムバック」の販売を開始した。

 南一二三副社長は「今後は社内の開発体制を整備し、中期的には自社開発商品をナバックで販売できるようにしていく」と、システム開発の強化に取り組む考えだ。
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