ユーザー事例 経営がITを変える

<ユーザー事例 経営がITを変える>12.中川

2006/06/26 20:29

週刊BCN 2006年06月26日vol.1143掲載

仕様書の自作にこだわる

提案依頼書の精度がカギ

 祭り用品の製造小売りを手がける中川(中川雅雄社長)は、率先して自ら業務分析を行うことで、費用対効果の高いIT化を効率よく推し進めている。祭りに使うはんてんや帯などの販売業者はニッチ市場だけに中小零細企業が多数を占める。そのなかで同社は、コンピュータを駆使した顧客管理やネット通販を展開することで業績を伸ばしてきた。

 成功の理由には、ITベンダーに対する提案依頼書の精度の高さがあげられる。提案依頼書を作成するには自社の業務フローをあらかじめ明らかにしなければならない。そのうえで、「どの部分を優先的にIT化すべきなのか」(中川社長)を分析し、費用対効果を考えながらITベンダーに提案依頼をかける。

 だが実際には、中小企業で業務フローが明確に示されているケースは少ない。社長の頭の中にのみ業務フローが存在し、現場は身体で覚えている不文律の状態もみられる。

 業務の中身があやふやなままITベンダーが開発に着手すれば、失敗を招きやすくなる。手直しなどを繰り返すうちに、投資額が膨らみ、使いづらいシステムになる悪循環も考えられる。

 中川では国や自治体の補助金も活用しつつ業務フローの明文化に努め、さらにITの知識を十分に得たうえでITベンダーに発注をかけている。2005年2月に大幅に機能強化したネット通販システムでは、細部にわたる仕様を自ら作成し、最小限のコストで祭り用品の販売に最適化したウェブサイトを開発した。仕様の策定や提案、依頼書の作成ではITコーディネータや東京商工会議所などから指導を得た。

 コンサルティングを担当するITコーディネータの林隆男・ライジングコンサルタンツ社長は、「中小企業は大企業に比べてIT投資の絶対額が少ない割に、業務フローのあいまいさに起因するトラブルが絶えない。このため基本は既存のパッケージソフトを使うことを勧めるが、中川のように自己分析すれば、より適したシステムを低コストで開発することも可能」と、IT化モデルのひとつとして注目している。東京商工会議所台東支部の西薗健史・主査経営指導員は、「ユーザーが自ら知識を高めてITベンダーとつき合うことが大切」と公的支援制度などを活用するのも有効だと話す。

 ITベンダーがいくら熱心に説得しても最終判断を下すのは経営者自身である。

 中川社長は、「経営者自らの意識改革なしにIT戦略は成り立たない。コンピュータは単なるツールで、自社のビジネスは究極的にはその企業の経営者にしか分からない」と、腰を据えた自己分析がIT戦略成功の条件だと指摘する。(安藤章司●取材/文)
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