視点

Winnyを取り締まる技術と法の網

2006/10/23 16:41

週刊BCN 2006年10月23日vol.1159掲載

 今年に入り、ファイル交換ソフト「Winny」が介在する情報漏えいが連日報道されてきた。危険性が認知され、Winnyのユーザーは減ると考えていたが、逆に増えている。ACCSほか関係団体が7月に発表した調査報告によると、6月時点でのユーザーは176万人と推定されている。同じ基準で計算した昨年は130万人。この調査では、音楽ファイルの91%、映像ファイルの86%、ソフトウェアの58%が著作権など権利の対象であり、かつ権利者の許諾がないと推定されている。

 Winnyの場合は、その仕様上、ファイルをダウンロードすると暗号化された「キャッシュ」と呼ばれるデータとして保存され、そのデータは自動的に公開される。これは、著作権者の許可がなければ、いうまでもなく違法である。年間30件もの刑事事件の調査を担うACCSとして放置できない違法行為ではあるが、これまでWinnyユーザーが摘発されたのは1件だけ。これまでは、違法状態にあるユーザーを突き止めることが難しかったのである。

 しかし、ここへきて米国のeEye Digital Security社が、WinnyユーザーのIPアドレスを検索する技術を開発した。現在は、テストとともに運用に伴う問題を整理している段階にある。

 一方で、法の運用についての議論も進んでいる。プロバイダの責任範囲を定めた「プロバイダ責任制限法」を運用するにあたり、ガイドラインを定めようという議論である。

 プロバイダ責任制限法は、掲示板などで名誉棄損の発言があったような場合、被害者が訴える相手を特定するために、サーバーの運営者や掲示板の管理者などに「発言者情報」の開示を求めることや、それに対するプロバイダ側の対応などを定めている。すでに、請求と開示の手順についてガイドラインが作成されているが、今般、議論しているのは、開示基準を明確にしようというものである。ここには、ファイル交換ソフトによる侵害行為も含まれる。

 Winnyは、著作権侵害だけではなく、ネットワークのトラフィックの面でも問題になりつつある。現代の社会基盤とも言えるネットワークの安全のため、啓発活動も必要だと思う。少なくとも、タダで手に入れたいという動機のWinnyユーザーには、技術と法が整備された時点で、強い態度で臨みたいと考えている。
 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
  • 1