視点

ITの技術知識におけるストックとフロー

2006/12/11 16:41

週刊BCN 2006年12月11日vol.1166掲載

 日本では、大多数のIT技術者が大学でコンピュータ科学を学んでいない。情報産業は急速に拡大する市場の要望に応えるために、可能性がある人材を取り込んで、自前で教育してきた。この状況は、社会の変化についてゆけない大学、高い初等教育の達成度、コンピュータの特殊性などの理由から生じており、他の技術分野では見られない特異な状況である。

 経済学者の野口悠紀雄氏は、その著書『「超」勉強法』の中で、「大学などゆかずに現場で学べばよいではないか」という考えに対して「フローとしての個別情報はいつでも学べるけれども、それを評価するストックとしての知識の体系は、ひとつの学問体系を系統的に学ぶことによってしか身につかない」と反論している。そして、「日本で『エコノミスト』として知られている人のなかには、基礎的な経済学の訓練を受けていない人がかなり多い。彼らは、細かい個々の事実については驚くほどよく知っているにもかかわらず、理論をもっていない。従ってそれらの事実をどう評価するかを知らず、基本的なことがらについて判断を誤る。」と主張している。

 このことは、日本のIT技術者についてもそのまま当てはまる。2001年の数字だが、日本は世界のIT投資の17・1%を占め、34・6%の米国と並んで国民一人当りで考えると世界のトップである。だが、02年のIT活用度は、世界で20位と評価された。投資効率の悪さも世界一である。

 日本の大学でも、IT技術者を真剣に育成して欲しいという経団連等の要請に応えて、専門職大学院がつくられようとしている。しかし、フローとしての知識ではなく、ストックとしての学問体系であるコンピュータ科学であり、これを修得して使いこなせる技術者が不足していることが問題の本質である。まずは、学部教育を徹底することから始めるべきであろう。これには学士入学制度を整備し、入学のインセンティブを与えるような政策が必要である。

 また、現場の技術者にとりあえず基礎教育のエッセンスを伝えて、それがどんなに仕事に役立つかを実感させるような教育をつくり出して試みる必要がある。私の研究室ではこうした教育システムを開発しているが、その普及には能力の高い教師の存在が不可欠である。優秀な技術者を教育に回す決断が業界全体に求められている。

 「教育」は削減すべき経費ではなく、生き残るための投資と考えるべきだ。
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