IT業界のグランドデザインを問う SIerの憂鬱

<IT業界のグランドデザインを問う SIerの憂鬱>第14回 利益率18%を実現できる理由

2007/07/09 16:04

週刊BCN 2007年07月09日vol.1194掲載

産業界は景気回復に沸き、IT投資は間違いなく上向いている。仕事はいくらでもある。人が足りない。売上高は増えている。なのに利益は一向に上がらない──「なぜだ?」と多くのSIerが頭を抱える。そうしたなか、着実に利益を伸ばしている情報サービス会社がある。東京・新宿に本社を置く日本システムディベロップメント(NSD)だ。営業利益率18.2%、純利益率11.9%はビジネス向けシステム開発受託業でトップクラス。どうしてこんなに高収益なのか。もう一つの「なぜだ?」を探った。(佃均(ジャーナリスト)●取材/文)

要員の稼働率が利益に直結

■売上高1000億円企業に比肩

 NSDの2006年度連結業績は、売上高が前年度比6.2%増の415億200万円、営業利益が19.8%増の75億7800万円、純利益は46.3%増の49億3900万円。売上高の伸びは業界平均に届かないが、本業の利益を示す営業利益率は18.2%、純利益率は11.9%と業界平均の3倍を誇っている。

 営業利益の額でいえばトランスコスモス(売上高1414億8900万円)、日立システムアンドサービス(同1170億7400万円)を上回る業績だ。1000億円を売り上げる企業と、利益面では肩を並べるほどの高収益体質を実現している。

 証券アナリスト向け決算説明会で冲中一郎社長は「2007年度は営業利益率18.5%、近い将来には20%を目指したい」と胸を張った。従業員の給与をよほど切り詰めているのかと思えば、年間給与は平均34.7歳で554万円と決して低くはない。

 低いのは外注依存度だ。業界平均が3割を超えるのに対して、同社は17%前後。ことに利益の源泉となっているソフトウェア受託開発部門の外注依存度は16.3%(単独)と内製比率が高い。外注先の多くがグループ会社で、中国やインドなどオフショア開発も行っていない。このため同社のやり方は「純血主義」とも称される。

 「外注を拡大すれば売上高を増やすことができるのはわかっている。しかし内製率が高くなければならない事情がある」と冲中社長は続ける。同社の大口顧客は金融機関、特に都市銀行。情報セキュリティの確保やシステム品質の観点から、派遣であれ受託であれ、安易な外注策を採用できない。冲中社長が言う“内製率が高くなければならない”事情とはこのことだ。

 とはいえ、受託能力を拡充してほしいという、顧客からの要望は強まる一方だ。「要員だけ増やす単純な派遣はしたくない。何かしら特徴があって、得意分野を表に出せるような会社なら場合によってはM&Aを考える。しかし、そういう会社はなかなか見つからない」。そこで検討しているのが中国でのオフショア開発だ。

 「国内大手SIerの仕事を主に受けている上海の会社がある。その経営者が日中ソフトウェア協定で日本で勉強していたときからの知り合い。信頼関係があるので、今年中にトライしようかと考えている」

■新規顧客をプライムで

 同社は1969年、当時の三和銀行でコンピュータシステムの運用管理を担当していた大東清氏がスピンオフして大阪市に設立した。一時はトランスコスモスと同じビルに本社オフィスを置いていたこともある。この関係から、三和・東海銀行が合併して誕生したUFJ銀行、現在の三菱東京UFJ銀行とも取引関係にある。さらにUFJ銀行のシステムをベースとする郵貯システムの開発と運用でも存在感を強めている。

 「金融システムに強いというのが当社の“売り”。開発だけならライバルは多いが、運用まで一貫して受託できるのは何社もない。逆にいえば、システム運用管理ができるから、システム開発を受注できる。利益率が低いからといって、コンピュータ室運用管理の一括受託を捨てるわけにはいかない」

 大口の安定顧客が多いため、営業コストがかからない。運用管理を握っているので、次期開発案件が前もって打診される。結果として要員の稼働率が90%を超える。ソフト会社にとって利益の損失を意味する要員の手空きを、自社の都合で調整できるのだ。

 だが冲中社長は「現在のNSDにはまだまだ不満がある」という。それは「社内の空気が、プライムで受注するぞ、という方向に向いていないこと」だ。

 安定大口顧客とコンピュータメーカーからの受注でNSDの業績は安定している。だが、「それだけでは売上高1000億円超は無理」とみている。

 「現在、プライム受注は全体の3割程度。これを6割までに伸ばす。プライムといっても企業体力を考えながら、まず10億円規模のプロジェクトをねらう。そのためにも新規顧客の開拓が重要になる」

■強みを自ら発信させる

 ここにきて冲中社長が口にするようになったのは「自分たちの強み」だ。孫子の兵法にいう「知敵知己」に通じるものがある。そして「改めて人材こそ財産」と強調する。

 「自分たちにとっては当たり前のことでも、周りから見たらスゴイことかもしれない。それが分かれば自信になり、胸を張ってもっと有利な価額をユーザーに要求できる。当社のエンジニアたちは奥ゆかしい」と冗談まじりに言うが、本心はじれったいのに違いない。

 大口の安定顧客に依存する下請け体質からプライム受注型にいかに抜け出すか。受託であれ派遣であれ、プライム受注に軸足を移していく。その視線の先にあるのは、相似形の下請け連鎖に依存しない自立したビジネスモデルだ。

 この春、東京で開いた新年度のキックオフ大会。全社員を前に冲中社長は突然、何人かの社員を壇上に上げた。機構改革に優れたアイデアを出した男性事務員、ユーザーが月額150万円の評価を示した27歳の女性エンジニア、効果的なプロジェクト管理で予算を大きくクリアした男性リーダー……。

 「その場で社長賞として100万円を渡した。事前に何も知らせていなかったので、全員が豆鳩(豆鉄砲を食らった鳩)のように目をまん丸にしていた」と愉快そうに笑う。

 いい仕事をしたら正当に報いる。教条主義的な能力主義、成果主義は意欲を削ぐ。モチベーションを高め、自己研鑽と自己啓発を誘発させる。それができるのも、営業利益率18%超の強みといってよい。
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