ITジュニアの群像

第60回 徳山工業高等専門学校

2007/10/08 20:45

週刊BCN 2007年10月08日vol.1206掲載

CGに強いクラブの伝統を生かす

今年もダークホース的存在になるか


 山口県の徳山高専は今回、競技・課題の2部門に出場する。昨年の課題部門では惜しくも敢闘賞にとどまったが、「とってもだいすききりえもん」という遊び心に満ちた作品で注目を集めた。今回はニューメディア同好会の活動で培った技量を発揮すべく、3年生を中心に課題部門では「おはじきぱっちん♪」という作品を提出する。


多彩な人材を擁してCGやDTMに挑戦

 徳山高専では、プロコンの出場母体が状況に応じて変化する。ニューメディア同好会というクラブを中心にメンバーを選出するケースがもっとも多いが、創造演習や卒業研究を中心にチームが構成されることもあり、応募チームが多ければ学内審査をパスしたチームをエントリーさせる。昨年の第17回大会に出場して健闘した「きりえもん」チーム、そして、今年の第18回大会に出場する「おはじきぱっちん♪」チームは、いずれもニューメディア同好会からの選出だ。

 ニューメディア同好会という名称が示すように、このクラブはプログラミングを学ぶことだけを目的にしているわけではなく、コンピュータを使ったグラフィック表現(CG)や音楽表現(DTM)などにも門戸を開いており、在籍するメンバーの内訳はプログラミング班が18名、グラフィック班が5名となっている。ちなみに、クラブのキャプテンで昨年の大会でプレゼンテーションを担当した河内山和也さん(情報電子工学科4年生)は、ピアノが趣味でベートーベンのソナタを弾きこなす。将来は音楽とコンピュータ・プログラムの学際的な方向に進みたいそうである。

 クラブの年間行事は高専プロコンへの挑戦を軸に、中国地方のコンピュータ・フェスティバル、高専祭と10-11月に集中する。新入部員には3年生以上の先輩たちが持ち回りでC言語と文章・画像・音声などにかかわるオブジェクト言語の基礎を、毎週1回2時間ほど講義し、プログラミングの基礎体力を養成するのが伝統とか。

 クラブ顧問の先生方も多士済済だ。情報電子工学科の重村哲至准教授は長らく高専プロコンの実行委員を務め、第11回大会から6年間にわたり競技責任者として競技ルールや問題、模範解答の作成に携わった。現在ではハンドボール部顧問のかたわら、ニューメディア同好会の相談役的存在となっている。大会運営にかかわる重村先生に代わってチームを引率するのは力規晃助手で、プログラミング班の顧問として学生たちを指導する。もう1人、グラフィック班の顧問が谷本圭司准教授。一般科目(国語)で中国宋代文学が専門だという変わり種(失礼!)だが、ともすれば専門分野に狭く深く傾斜しがちな学生たちに、広い視野とコモンセンスを与える存在で、3人の教師たちの配置の絶妙さもクラブの特色だと思われる。


遊びながら数を覚える「おはじきぱっちん♪」

 第17回大会の徳山高専は課題部門に「とってもだいすき きりえもん」という作品でエントリーした。これは子供が切り絵を制作するための支援システムで、携帯電話やデジカメからPCに取り込んだ写真をベースに切り絵を作成するというもの。CGへの取り組みが盛んなクラブらしい作品だ。市販の画像処理ソフトとの違いは、幼稚園児の年長組から低学年の小学生までをターゲットとしたカラフルでわかりやすいインターフェースの採用で、大会会場のデモでもひときわ目立っていた。

 開発に当たっては、まだ授業で習ってもいないJavaを部員たちで独習。夏休み期間中も登校して、取り込んだ画像の輪郭線を切り絵の輪郭に変換する仕組みを作り上げた。大会前には近所の小学校にシステムを持ち込んで実証実験まで行った。デモの下馬評も上々で、課題部門で1-2位を独占することになる長野高専が「きりえもん」を対抗馬にあげたという噂が伝わったほどだった。

 今年の大会では昨年の詰めの甘さを反省して、メンバーは「計画性と徹底した準備」を合い言葉に作品の完成に挑む。キャプテンの河内山さんは競技部門に出場するため、前回インターフェースを担当した作本みなみさん(情報電子工学科4年生・将来はSE志望)と、プログラミングを担当する大和田隆司さん(同3年生)が軸となり、他に同学科3年生の大谷洋平さん、古谷康太郎さん、2年生の八木俊樹さんが参加する。

 今回のテーマは「おはじきぱっちん♪」で、3ー4歳の幼児を対象におはじきの遊び方を教え、おはじきで遊ぶうちに算数(計算)が身につくようにするというシステムだ。

 取材時点でのスケッチでは、おはじきで遊ぶフィールド、USB接続のカメラやプロジェクター、それらを設置するためのフレームなど、ハードウェア構成にも比重がかかるため、会場で上手にデモを実現できるかどうかがカギになりそうだ。この夏休みの間に、どこまで完成度を高めることができただろうか。


開校当初から複合学科を採用 平野千博校長

 徳山高専は1974(昭和49)年に開校した。山口県内にはすでに宇部高専があったが、県東部に理系の高等教育機関が必要という地元の強い要望に基づいて設置されたものである。そうした期待に応えるように、90年代における同校はロボコン強豪校として名を馳せ、長澤まさみが初主演した映画「ロボコン」(古厩智之監督)のロケ舞台ともなった。

 同校は全国に開設された旧国立高専の12年間の歴史と反省を踏まえ、また時代の要請に応じて、開校当初から「複合学科」という新しい概念を採り入れた。現在は機械電気工学、情報電子工学、土木建築工学の3専攻各1クラスから構成されている。

 学生も地元周南市(平成15年に徳山市など2市2町村が合併)および隣接する下松市、光市などからの通学生が多く、寮生の割合が少ない(18%)のが特徴だ。卒業生の65%が就職するが、就職者の県内就職率は20%前後にとどまる。このため同校では、徳山の商店街に「徳山高専夢広場」を設置するなどしてPRや地域との連携強化を図っている。

 プロコンでも毎年本戦出場を果たす常連校のひとつで、平野校長も「学生がアイデアを競い合い、その成果が達成感や自信につながる」と評価し、創造教育の一環として後押ししている。なお、徳山高専は今年の高専デザイン・コンテストの主管校でもある。



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今年1月26日に開催されたBCN AWARD 2007/
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外部リンク

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