ITから社会を映すNEWSを追う

<ITから社会を映すNEWSを追う>「情報化月間」で見えるモノ

2007/10/22 16:04

週刊BCN 2007年10月22日vol.1208掲載

各地で計211のイベント

草の根型の情報化へ

 今年の「情報化月間」のメインテーマは「新たなる改革への挑戦~IT投資の選択と集中による生産性の向上~」だ。本紙も10月発行号に「情報化月間特集」と銘打って、これからの情報化の方向性を探っている。紙面構成の都合もあって掲載が遅くなったが、情報化月間の記念イベントは11月末まで全国各地で開かれる。これから開かれる主なイベントやその傾向をまとめてみた。そこから何が見えるだろうか。(中尾英二(評論家)●取材/文)

 今年の情報化月間は「情報化週間」時代から数えて36回目となる。10月1日に東京・六本木のホテルで開かれた記念シンポジウムを皮切りに、全国で200以上のイベントが展開されている。

 一部には「年間を通して情報化を考えなければならない時代。10月だけというのはおかしい」という指摘もあるが、交通安全にも読書にもそれを記念する週間や月間がある。社会の注意を喚起できる効果は否定できない。

 情報化月間推進会議のWebサイト(http://www.jipdec.jp/gekkan/about/index.html)に掲示されている各地の記念イベントは計211件。「10月初旬に駆け込みの登録申請があったが、もうそろそろ追加はなさそう」と事務局担当者は言う。

 211のイベントには「全国」に分類される2件が含まれる。ひとつは9月19日から23日まで中国の瀋陽、長春でひらかれた「中国IT企業とのオフショアビジネス促進視察会」(主催・北海道IT推進協会)、もうひとつは10月いっぱい全国の小・中・高校で開かれる「毎日パソコン入力コンクール」(主催・毎日新聞社、日本パソコン能力検定委員会)だ。海外での催しが情報化月間記念イベントに認定されているのは、ちょっと意外だ。

■大規模イベントは東京に集中

 残る209件を地域別に見ると、北海道が4件と最も少ない。今からでも間に合うのは11月27日に札幌市の京王プラザホテルで開かれる「北海道広域IT技術交流会」(北海道情報産業クラスター・フォーラム)。“IT立国”を目指して元気がいい北海道地区のIT産業の勢いが示される。

 以下、東北が23件、関東が53件、中部が34件、関西が18件、中国・四国が57件、九州・沖縄が20件。各地で共通イベントを実施するのはNPO法人日本情報技術取引所の「営業商談会」、ネットワークセキュリティ協会の「インターネット安全教室」、日本セキュリティ監査協会の「情報セキュリティ監査セミナー」などがある。

 規模が大きいイベントは「JUASスクエア ITガバナンス2007」(9月12・13日、東京)、「CEATECジャパン」(10月2─6日、幕張)、「地方自治情報化推進フェア」(10月4・5日、東京)などがすでに終了、これからでも間に合うのは「IPAフォーラム2007」(10月30日、東京)、「JISAコンベンション」(同)、「組込み総合技術展」(11月13─16日、横浜)など。産業集積度が高い東京、関東に集中している。

■“地方の元気”に注目

 その意味では名古屋、浜松、静岡を抱える中部地区で開かれるイベントが34件、京都、大阪、神戸を擁する近畿が18件というのは、ちょっと少なすぎる印象が拭えない。中京地区は自動車、電子機器、工作機械などを中心に地域経済が高揚しており、「IT投資の選択と集中」を実践している現場といっていい。講演を聞くまでもない、ということなのかもしれない。

 それもあって中部地区でイベントが開かれるのは北陸3県、岐阜など周辺が過半を占めている。このうち関心を集めそうなのは11月1日に岐阜市で予定されている「ITによる生産性向上」講演会、同2・3日に開かれる「テクノメッセ2007」(岐阜)などである。近畿・関西地区では「ビジネスショウ関西」(11月1・2日、大阪市)、「観光と情報~心をつかむ観光情報のつくり方・わたし方(仮題)」(京都市)がある。

 “地域の元気”を示しているのが中国・四国地区と九州・沖縄地区だ。中国・四国地区では岡山、広島、島根、鳥取、山口、徳島、香川、愛媛、高知でIT経営応援隊、ネットショップ実践研修、システムエンジニアレベルアップ講座など、より実務に近い内容のイベントが開かれる。

 九州・沖縄地区のイベントでは11月1日から12月31日まで連続で開講される「農業経営者向けIT経営実践研修」(主催・九州IT経営応援隊)、11月6─15日に久留米市で行われる「eコマース成功支援研修」などが注目される。特に農業経営者のIT利活用を提唱する取り組みはユニークだ。

■市民の目線とグランドデザイン

 全体の傾向として目につくのは、これまでのトップダウン型の情報化から地域に密着した草の根型の情報化へ、焦点が移っていること。東京を筆頭に大都市圏と地域のIT格差が顕著になり、このまま放置すると就労構造や産業構造に深刻な影響を与えかねない。結果として過疎と過密がますます進み、健全な少子高齢化社会の形成に支障が出ることも考えられる。

 つまり、「IT投資の選択と集中」「生産性の向上」とは、一企業におけるコスト削減や品質向上ばかりを意味していない。またテクノロジーそのものを議論しようというのでもない。ポイントは社会全体の生産性や品質をITでどう高めていくかだ。

 むろん、そのためには人材の育成やIT資源の最適配置が図られなければならない。情報産業が勃興した1960年代、国は全国総合開発計画を策定し、新産業都市建設促進法を定めて、「この国のグランドデザイン」を描いてみせた。

 これからの情報化に欠かせないのは、市民生活の目線と将来のグランドデザインだ。

ズームアップ
情報化月間
 
 「情報化月間」の前身である「情報化週間」の第1回が開催されたのは1972年のこと。その2年前の7月に「情報処理新興事業協会等に関する法律」が施行され、国産コンピュータメーカーの3グループ化や情報サービス業の育成振興に国が本腰を入れ始めたときだった。
 日本情報処理開発協会(JIPDEC)に事務局を置く情報化月間推進会議がとりまとめ役となり、経済産業省、総務省の情報化先導2省をはじめ、内閣府、財務省、文部科学省、国土交通省が参加している。
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