地域を駆けるシステムプロバイダ 列島IT事情

<地域を駆けるシステムプロバイダ 列島IT事情>中国編(下)

2007/11/05 20:37

週刊BCN 2007年11月05日vol.1210掲載

 広島県下のITベンダーが中心となり、インターネットビジネスについて積極的に研究する「広島インターネットビジネスソサイエティ(HiBiS)」という広島情報サービス産業協会の特別部会がある。インターネットが普及しはじめた頃、傍流だったインターネットをビジネスの中核にしようと1996年に立ち上がったHiBiSの現状を取材した。(鍋島蓉子●取材/文)

インターネットビジネスを中核に
エンドユーザー含めビジネスを研究

■企業の連携でHiBiS発足 インターネットの活用を模索

 情報サービス産業協会の特別部会として96年、「広島インターネットビジネスソサイエティ(HiBiS)」が立ち上がった。当初はインターネットが普及し始めた時代で、HiBiSの立ち上げ前は、インターネット関連の団体として主にNPO法人「中国四国インターネット協議会(CSI)」が学術を中心に、大学間のネットワークのプロバイダなどの役割を担ってきた。

 こうしたなか、CSIの運営に携わっていた企業が集まって、インターネットのビジネスに与える影響を考察するため、立ち上げたのがHiBiSだ。地場ITベンダーの多くが大手ベンダーの下請けという状況下で、下請けからの脱却を図っていく目的もあった。「インターネットが傍流だった時代にビジネスに生かしていくべく、活動を始めた。最初はメールで意見交換しようという話だったが、その頃はメールサーバーを持っていない企業が多かった」と、ハイエレコン(仲田淳嗣社長)の福井五郎常務は振り返る。

 今年で11年目を迎えるHiBiSは、ICカード利用部会、ウェブ2.0部会、モバイルビジネス部会、インターネットセキュリティ部会、ウェブマーケティング部会の5つの部会から構成されている。エンドユーザーなど、情報サービス産業協会以外の会員も参加でき、一緒にビジネスを考えていける仕組みが大きな特徴だ。部会が中心の活動だが、セミナーやインターネットビジネスフォーラムなどの活動が行われている。インターネットビジネスフォーラムでは、募集の中から優秀なビジネスを選択し表彰している。また、今年は2年に1度開催される、中国地方最大級のIT関連イベント「コンピュータ&ネットワークEPO,07広島」ではシンポジウムを開催している。

 「今は企業同士が集まって一緒に切磋琢磨している。設立当初はインターネットの基盤整備が活動の中心だったが、近年はインターネットの活用シーンの模索にシフトしている」と福井氏。

■部会研究でビジネス実現 学生証にICカード活用

 5部会の中でも、ビジネスが形となっている部会が2つある。goo地図のAPIを活用した「来て見てショット」の実証実験に取り組んでいるウェブ2.0部会とICカード利用部会だ。

 ICカード利用部会は、エンドユーザー、大学など産学が共同で、ICカードを学術領域に生かす活動を行っている。「なぜICカードがHiBiSの一部会にあるかというと、ICカードで認証を行う際にネットワークは切り離せないため、最終的にはインターネットビジネスと関連するものだから」とマイティネット(小河喜與史社長)の竹内盛登部長はいう。

 当初はICカードを研究する際、住民基本台帳カードを活用したビジネスを広げていこうと考えていたが、「市町村の腰が重く、なかなか思うように進まなかった」という。そこで、広島県下の公立、私立大学の共通学生証としてICカードを活用しようと活動を始めた。共通学生証は単位互換などに役立てる。ベースとなる規格がFeliCa(フェリカ)であったため、ソニーにも協力を得た。ICカードの仕様が決まった後に今年4月から2校で運用を行ってきた。今後は参加していない大学にも呼びかけていく計画だ。

 実際にビジネスにどういう形で生かしていくかが課題でもある。「ビジネスを模索する協議会につながったとして、どれだけの企業が参加するのか、もしかすると銀行、カード会社など特定の企業しか参加しないかもしれない」(竹内部長)。事業化するにしろ、アライアンスを組むのか、もしくは各企業が単独で行うのかなど、これから議論される。

■若手経営者の参加で活発化 エンドユーザーの参加願う

 HiBiSでは、最近、30-40代の若手経営者が活動に加わったことで、年齢構成が若くなり、活気が出てきたという。「情報産業協会では、何かをやる、となっても、自分から率先する雰囲気がなかった」と福井氏。しかし、若手が入ってきたことで、「自ら手を挙げる人間が増えた」という。

 HiBiSの運営委員である、ネクストビジョン(有馬猛夫社長)では、中小企業向け統合型情報セキュリティ・メールアーカイブシステム「LOGCube(ログキューブ)」や、SNSを内定者確保のために活用する「スタートラインSNS」を提供。有馬社長は「HiBiSでの活動はビジネスに対していい刺激をもらうことが多い」という。

 また、ノイアンドコンピューティング(藤川英士社長)は、モバイルコンテンツを各端末に合わせて自動変換する「エリクサーモバイルゲートウェイ」などモバイル関連のソリューションを提供し、ネクストビジョンとともに県下でも注目されているベンチャー企業だ。

 藤川社長は、06年に立ち上げたウェブマーケティング部会では部会長を、ウェブ2.0部会で副部会長を務めている。

 ウェブマーケティング部会では、他の部会のように技術ではなく、インターネットをメディアという側面から研究する。「題材はエンドユーザーに『こういうビジネス』がしたいと要望からでてくるものだと思っている」が、現在抱えている課題は「エンドユーザーの参加がなかなか増えない」こと。ビジネスフォーラムでエンドユーザーに参加を呼びかけているが、もっと積極的に参加して欲しい」と考えている。

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