ITから社会を映すNEWSを追う

<ITから社会を映すNEWSを追う>環境省がエコポイント制度

2008/04/07 16:04

週刊BCN 2008年04月07日vol.1230掲載

サミット向けに終わらせるな

開発に補助金3億5000万円

 省エネ家電を買った人やレジ袋を辞退した人に値引きポイントを──2008年度から環境省が「エコポイント制度」をスタートさせる。このほどモデル事業として全国型4件、地域型9件の計13件を選定した。買い物をしたときに付く通常のポイントとは別にエコポイントを発行、次回の買い物で値引きに使ったり、サービスを受けられるようにする。同様のサービスはすでに全国で実施されており、特段の目新しさはない。システム開発費などに3億5000万円を補助するが、原資は民間負担。「所詮は洞爺湖サミット向けで、民間や市町村の後追い」という声が聞こえてくる。(佃均(ITジャーナリスト)●取材/文)

■家庭・個人の意識を啓発

 環境保護や二酸化炭素(CO2)の排出削減に結びつくアクションに何らかの特典を、という声は数年前からあがっていた。ハイブリッドカーの購入やソーラーパネルの導入に際して、取得税の一部を控除するといった施策が講じられ、家庭からの生ゴミ排出量を減らすためバクテリアで分解する装置に補助金を出している市町村もある。今回、環境省が打ち出した「エコポイント」もその一環だ。

 CO2排出量全体の3分の1は家庭や個人といわれる。工場や交通機関に対しては国が一定の規制をかけたり排出権取引などで対応することができるが、家庭や個人となると、まず一般の人に認識を持ってもらうことが先決、というわけだ。全国民が「どうせ買うならエコポイントが付く商品を」となれば、京都議定書の削減目標達成に大きく前進する。

■最大規模はJCBとTカード

 先に選定されたモデル事業13件のうち最も規模が大きいのはJCBとTカード&マーケティングで、JCBのシステムには家電量販店のコジマ、三菱電機、事務用品販売のアスクル、東急電鉄など22社が、Tカードのシステムには中古本流通販売のブックオフ、ビデオレンタルのTSUTAYA、コンビニのファミリーマート、焼肉チェーン店の牛角、ファミリーレストランのすかいらーくなど44社がそれぞれ参加する。このうちJCBは参加企業の出資を募って別法人を立ち上げ、洞爺湖サミットに合わせてまず北海道でシステムを稼働させる予定だ。

 また電通は飲料メーカーやスポーツ用品、金融機関、家電メーカー、自動車メーカーなどに呼びかけて、スポーツ競技団体と連携したイベントを運営し、温暖化対策貢献商品やCO2排出権付き商品の企画・販売をプロモーションする。エコポイントの形で寄付金を集め、それを原資に環境イベントを開催することも検討している。NTTレゾナントは同社が運営するWeb検索サイト「goo」のオンラインショッピングサイト「NTT─X Store」での買い物にエコポイントを付ける。

 地域型で規模が大きいのは東京マイコープ。関東近県10のグループ生協(会員数約100万人)を対象に、取り扱う全商品をエコポイントの対象とする。明らかに洞爺湖サミット向けなのは北海道環境財団、ふらの市民環境会議。また京都議定書との関係から京都地球温暖化防止府民会議、きょうと情報カードシステムが選ばれた。

 ユニークなのは東京の高田馬場西商店街振興組合だ。レジ袋を辞退するだけでなく、使用済みレジ袋などを持参した人にエコポイントを発行、すでに地域内で流通している「アトム通貨」という独自の地域通貨と交換できるようにする。

■地域通貨で先行例も

 ただ、エコポイントは環境省のオリジナルな施策ではない。3年前に開かれた愛知万博「愛・地球博」でもレジ袋辞退者やゴミの持ち帰りにポイントを付与し、それに見合う額の植樹を行った。185日間の会期中、会場の内外で削減されたCO2排出量は約780万トン相当と算定されている。万博終了後も事業はNPO法人エコデザイン市民社会フォーラムが運営し、名古屋市周辺で継続中だ。

 また地域通貨を先行実施している市町村もある。新潟県三条市の地域通貨「らて」、北九州市の「環境パスポート(カンパス)」、別府市の「泉都」などだ。「らて」、「泉都」は行政と市民の協業型、「カンパス」は総務省の住民基本台帳カードを活用している。

 民間企業が独自で取り組んでいるケースもある。宅配便の佐川急便は千趣会のベルメゾンと提携し、佐川急便で配送された千趣会の商品を購入した人にエコポイントを付与している。エコポイントは一定のレートで千趣会での買い物ポイント(ベルメゾンポイント)に交換、もしくはノーベル平和賞の受賞者で「MOTTAINAI」運動で知られるワンガリ・マータイ女史の植林運動に寄付することができる仕組みになっている。

 コンビニではローソンが先行している。同社は先に、今年4月1日から北海道エリアの約500店舗で、レジ袋辞退者に追加のポイントを付与するサービスを開始した。北海道と結んだ連携協定の一環で、消費者の反応をみて秋口から全国に展開する。同社によると、コンビニ業界では初めての試みで、20%のレジ袋削減を目指す。サービスは100円分の買い物につき1ポイントがたまる既存のポイントカードに、「エコポイント」として1回1ポイントを追加する。1ポイント=1円で換算し、「お買い物券」に換えられるなどの特典を付ける。またローソンは5月1日から、道内の店舗でサミットのロゴが入ったエコバッグを来店者に無料で配布する。

 環境省の制度に新鮮さ、新規性がないのは、ポイント還元の原資はあくまでも民間任せという点だ。ローソンのように、企業イメージ作りの狙いもあって、放っておいても民間企業は取り組むだろうし、取り組まざるを得ない。それを加速させるなら、企業や家庭、個人に対する税軽減措置を講じるのが本筋ではないか。また経済産業省や総務省などの施策との連携も欠かせない。全体を包括する枠組みという視点が抜けているのが残念だ。

ズームアップ
MOTTAINAI精神
 
 2005年2月に来日したワンガリ・マータイ女史が日本語の「もったいない」という言葉の意味を知って、国連女性地位委員会で提唱した「MOTTAINAI」キャンペーンが逆輸入された。こうしたプロモーションが地球温暖化防止策への一般市民の関心を高め、具体的なアクションが広がっていくのはいいことだ。
 あえて地球環境保護やCO2削減といった問題を意識しなくても、「MOTTAINAI」の考え方が浸透していけば社会全体の無駄が削減され、食糧自給率の向上や地域のアイデンティティ、農業の見直しにつながっていく。真にMOTTAINAI精神が必要なのは防衛省、社会保険庁や国土交通省といった中央官庁なのだろう。
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