業界でデファクトとなるソフトウェアやソリューションを探せ――。 日本IBM(大歳卓麻社長兼会長)は国内中堅・中小企業(SMB)のさまざまな業界で実績のあるソリューションやソフトウェア製品を特定し、その業界の団体などと協力して該当業界全体に「横展開」するパートナー戦略を展開している。同社ビジネスパートナー(BP)のうち、該当するISV(独立系ソフトウェアベンダー)やSIer、事例の対象となる企業担当者らが講演する「業界別事例紹介セミナー」を定期的に開催。業界団体などに同セミナー開催を案内して集客し、成功事例を紹介することで、IT導入の機運を促している。業界全体へ浸透させることができれば「業界デファクト」のソリューション/製品を生み出すことができるという仕組み。IT業界で注目され始めた同事業の実際を今回から連載で紹介する。

業界団体と「先進事例」を横展開

セミナーで「見込み客」つかめ

 日本IBMが展開しているのは、「PWIN (PartnerWorld Industry Networks)」と「VIP (Vertical Industry Program)」。米IBMで先行して実施している仕組みを日本向けにアレンジして、昨年から日本でも開始した。現在、断続的に「業界別事例紹介セミナー」を開催中だ。

 この事業は、同社の既存チャネルであるビジネスパートナー(BP)のISV(独立系ソフトウェアベンダー)やSIerが保有するソフトウェアやソリューションなどを利用して実際に企業へ導入して成功した事例から、業種をさらに細分化した特定業界において、その業界団体や協会/組合などに協力を仰ぎ浸透を狙う。

 例えば、「製造業」であれば、「プラスチック製造」や「食品製造」などに絞り込む。細分化されたこうした業界の基幹システムに限らず、まずは同業界内で利用頻度が高いと判断したソリューションや製品の成功事例を探す。

 「業界別事例紹介セミナー」では、こうした成功事例を積極的に取り上げ、ユーザー企業側の導入メリットや導入効果などを語ってもらう。同セミナーは、各業界の団体などを経由して参加依頼をし、団体に所属する企業に参集してもらう。この場では、成功事例のシステム構築を手がけたISVやSIerなどが、導入までの経緯などを説明する。その業界特有の用語や詳細な手続きにも話がおよぶため、通常の製品セミナーとは一線を画すような専門的な質問やコメントが飛び交う。

 日本IBMが今年5月下旬に開催した「業界別事例紹介セミナー」では、「旅行業界向け」の事例などが紹介された。具体的には、ユーザー企業の格安海外旅行代理店のアールアンドシーツアーズ(R&Cツアーズ)に対し、SIerの三和コムテックがHA(高可用性)システムを導入した内容だ。

 R&Cツアーズは、世界中の航空会社や宿泊施設、旅行代理店などとネットワークを結び、航空券や宿泊チケットの確保をする事業を展開。以前には、システムダウンする事故を経験し、システム停止中に危機回避するため手作業で予約作業を行ったことがあるという。この事故の際に、ダブルブッキングが発生するなど苦い経験があるため、これを機に事業継続をする上でHAシステムの導入の必要性に気づいたという。この回のセミナーには、代理店業者の同業他社が多く参加。同じように事業継続に対する悩みをもっている企業がほとんどで、参加者は興味津々だった。このため、三和コムテックのHAシステムは、参加者の企業に導入する機運が生まれ「見込み客」を得るいい機会になったようだ。

業界団体とコラボで浸透を

 SMBの業界内で実績を上げたソリューションや製品は、同じ悩みを持つ同業他社にも関心が高いことは言うまでもない。同社はこの点に注目し、ITベンダーとユーザー企業、業界団体をコラボレーションする機会を作ることで、業界全体へ浸透することができると考えた。「VIP」の特徴は、自社製IAサーバーやミドルウェアを搭載したソリューションや製品に限定せずに紹介することや、業界の団体や協会・組合などと集客などで協業するという点だ。団体や協会/組合の多くは、公益法人であるため、ここを経由した販売をすることはできない。ただし、クチコミで成功事例が広まることは期待できる。日本IBMでは、こうした“埋もれた成功事例”を発掘し、業界内で育てて「業界デファクト」にすることができれば、同社系列やBPなどのチャネルを経由してSMB顧客を拡大できると見ている。

 これまでに同セミナー向けに発掘したソリューションや製品の成功事例は、同社製品を搭載した系列やBP、ISVなどが保有するものを中心に13業界に及ぶ。これらはこの先、ISVや系列チャネルなどを通じて拡販される。日本IBMでは、100ほどの成功事例を集め、収集が一段落し業界団体などと連携できた時点で段階的にセミナーを開催することにしている。

SOAで製品が結びつく

 日本IBMは06年末、ISVを対象とした業種別販売支援プログラム「PartnerWorld Industry Networks(PWIN)」を、 ISVや販売会社、SIerなど、より幅広い範囲でBPの発見や案件発掘、システム導入/開発支援などを行う制度「PartnerWorld」に融合した。これにより、自社製品で全業種を賄うのではなく、各業種別に専門的なノウハウや実績のあるISV製品などを自社製品/ソリューションに融合し、ハードウェアやツール類、サービスが有機的に連携して、ユーザー企業にSOA(サービス指向アーキテクチャ)環境を構築する体制を確立した。

 また、今年1月より中堅・中小企業向けの市場に、よりフォーカスするために、営業体制を大きく変革した。これまで以上に、ISV、SIer、販売会社と有機的に連携して、業界別に攻める方針だ。

 現在展開している同「VIP」は、こうしたSMB向け戦略の一環として開始されたもので、より業界を絞り込み具体的に“攻める”ための施策だ。

 この連載では、同セミナーで紹介された事例などを手がけたSIerやISVと、ユーザー事例への取材を通じて、各業界でどんなシステムがどのような効果を上げ、浸透しつつあるのかをリポートする。(谷畑良胤(本紙編集長)●取材/文)