コンテンツビジネスに異変

著作権の一部開放へ圧力


 デジタルコンテンツビジネスを巡って大きな地殻変動が起きている。これまで権利者が独占的に保持してきた著作権の一部を開放し、ユーザーが一定のルールの枠内でコンテンツを再利用できる仕組みづくりが急ピッチで進んでいる。コンピュータソフトウェアでは、いち早くオープンソースソフト(OSS)が立ち上がり、ユーザーやエンジニアがこぞって開発に参加。OSやミドルウェア、アプリケーションなどさまざまな優れた製品が生み出され、IT産業の発展に大いに貢献している。デジタルコンテンツでも同様にオープン化を進めることで産業発展につなげようとする動きが顕著になってきた。

オープン化は止まらない

 近年のIT産業の発展はオープン化によるイノベーションによるところが大きい。満足に通信もできなかったコンピュータがイーサネットによってつながり、インターネット(TCP/IP)の登場によって世界中にオープン型のネットワークが広がった。さらにWebの登場によって誰でも簡単にデジタルコンテンツの発信ができるようになり、ユーザー参加型メディア(CGM)を軸とするWeb2.0時代に突入する。

 オープン化の波は、インフラ階層から始まり、アプリケーション、デジタルコンテンツへと及びつつある。ソフトウェアではすでにOSSが、IT産業で重要なポジションを占めており、データベースやOS、インターネットブラウザに至るまで優れた製品をつくりだしてきた。OSSの登場によって、特定の会社、製品のビジネスが立ち行かなくなったケースは実際にある。だが、オープン化によるイノベーションによって、それ以上にIT産業やユーザーはメリットを享受しているのだ。

 とはいえ、さらに上の階層に位置するデジタルコンテンツにおいてオープン化を進めるには、大きな壁が立ちふさがる。「著作権」という壁だ。著作権はOSSのように、第三者が自由に参加してコンテンツを改変したり、バージョンアップしたり、違うものに作り変えたりすることを想定していない。基本的に権利者以外によるバージョンアップや作り変えが許されないのが著作物であると定義されていたからだ。

 ところが、ここにきてWeb2.0に包含されるCGMが急速に発展。従来の著作権と正面からぶつかることとなった。デジタルコンテンツは、アナログテレビとは異なり、パソコンなどのデバイスにコピーして消費する。一方的に消費するだけなら問題はないが、手元にあるコンテンツを自分の好みに合うように編集したり、別の作品に組み込んだりすると、とたんに著作権の壁にぶつかる。

一触即発の危険な状態

 ブログやSNS、動画投稿サイトなどCGMの発展はとどまるところを知らず、ユーザーは自身でデジタルコンテンツを制作するだけでなく、既存のコンテンツとリミックスして楽しむようになった。現に、動画投稿サイトのYouTubeやニコニコ動画は、ユーザーによるリミックス作品やアレンジを加えられた作品が少なからず見られる。このままでは、権利を侵害された既存コンテンツの権利者とユーザーの衝突が予測され、すでに「一触即発の状態にまできている」と、デジタルコンテンツ業界の関係者は話す。

 そこで出てきた考えがクリエイティブ・コモンズ(CC)だ。権利者がすべての権利を保持する「All Rights Reserved」ではなく、いくつか必要な権利を手元に残し、一部の著作権をユーザーに開放する「Some Rights Reserved」を提唱する。権利者とユーザーの妥協点を見いだすことで正面衝突を避け、お互いにメリットのある方向に導くのが狙いである。

 7月30日-8月1日までCCを議論する国際会議「iCommons Summit(アイコモンズ・サミット)2008」が札幌市で開催された。同会議は4回目を数え、アジア地域では初めての開催だ。そのなかで、CC創設者でスタンフォード大学教授のローレンス・レッシグ氏は、「ITの発展により、著作権の影響範囲が従来と比較にならないほど拡大している」と、CCの必要性を説いた。

 これまでの著作権は、原作者や出版社など“業界関係者”の利益を守るために機能すればよかったが、Web2.0時代では、一般ユーザーまで著作権と深く関わらざる得ない。何十年も変わらない著作権法だが、「入力するパラメーターが変わったため、出力される数値も変わってきた」(同)と、環境変化によって著作権の影響範囲が、立法時の予想をはるかに超えて広がっていると分析する。

 iCommons Summitでは、国内外からおよそ500人の参加者があった。国内からは、角川グループホールディングスの角川歴彦会長、ニコニコ動画を運営するドワンゴの伊織巧人執行役員、ニフティの古河建純常任顧問、クリプトン・フューチャー・メディアの伊藤博之社長、北海道大学の田村善之教授など、CGMビジネスや著作権に詳しい経営者や識者が多数参加した。(安藤章司●取材/文)

 本連載では、こうしたキーパーソンへのインタビューを交えながら、次世代のデジタルコンテンツビジネスのあり方を探る。