机上の理論を実践で試す

 特殊金属加工業者の林商会がIT化に踏み切ったのは、「あまりにもアバウトなビジネスのやり方が根付いていると感じた」(林正裕社長)ためだった。

 林社長が入社したのは01年。経営者だった父親の逝去により、会社を継ぐことになった。ところが、「入社後、まず驚いたことは取引の煩雑性だった」という。売買は通常、取引先と電話でのやり取りがメインとなる。しかし、同社サイドで市況のデータや在庫管理が整備されていないことから、「相手の言い値で取引が決まってしまう」。現状のままでは業績を伸ばすことは難しいと判断したそうだ。「既存の慣習にとらわれずに合理的に取り組んでいく」。そこで、まずは若手の起用など人材の確保から始めた。優秀な人材が揃ったと実感したのが3年程度が経過した04年頃。それを機にIT化を進めた。IT化が業務改善につながると認識していたのは、「IT系コンサルタントの経験がある」ことが背景にある。

 また、学生時代の友人有志と、新しいビジネスモデルや経営革新に関して自由に話し合う会合を定期的に設けていたことも後押しした。その会を通じて知り合った大塚有希子・ITコーディネータと意気投合。「当社がIT化を進める際は、ITによる経営革新で実績のある大塚さんに依頼しよう」と決めていた。実際、大塚ITCに依頼したことで、「ベンダーの選定で頼りになった」としている。

 学生時代から続く会合は今でも続いており、林社長や大塚ITC以外にも大学教授や研究所員、アナリストなどさまざまなメンバーが揃っている。もっぱらビジネスモデルを創造し、実践で役立つかどうかを議論している。「机上で作り上げたものを実践で試す」ことが林社長の役割だそうだ。統合基幹システムは、この会で話し合ったことも生かされている。

 今後のシステム増強については、「パソコンだけでなく、携帯電話でもデータ管理や分析ができる仕組みを取り入れる」。開発はほぼ完成していることから、近日稼働する予定だ。また、さまざまな業務アプリケーションとの連動も模索。具体的な内容は今後詰めるが「来年はシステム投資額として5000万円を予定している」と、大規模なバージョンアップを計画している。

 同社では今年度の売上高として18億円(前年度は20億円)と減少を見込む。これは、原油高が続いたことによる仕入価格の高騰に加え、先行き不透明な市況感からだ。「米国金融危機の影響が実体経済にも影響し、来年度以降は一段と厳しいものになるだろう」とみている。しかし、この厳しい状況をチャンスとしてとらえ、3年後には「30億円の売上規模に引き上げる」と自信をみせる。