IT経営コーディネート 企業活性化にITCの妙手

<「IT経営」コーディネート 企業活性化にITCの妙手>101.「IT経営力大賞」シリーズ 鬼頭精器製作所(下)

2009/07/27 16:40

週刊BCN 2009年07月27日vol.1294掲載

ビジネス基盤強化へ前進

 精密加工の鬼頭精器製作所は、納期遵守率を高めるために、取引慣行や社内意識の変革など抜本的な対策を講じた。受注時の納期交渉はもとより、製造工程における標準化を推進することで、昨年度(2008年12月期)には納期遵守率93%の成果を上げた。昨年度の月間の平均受注件数は600~700件で、工程数は平均9工程ほど。多品種少量の生産が試作品の特徴であり、一品モノも少なくない。このことが作業の標準化を遅らせ、納期遵守率を向上させるうえでの足かせになっていた。

 担当ITコーディネータの秋山剛氏が打ち出した改善策では、できる限り作業の標準時間を決め、もし、見積もった時間内に終わらない場合は原因を追究する仕組みづくりである。システム面でも受注後の工程が一覧できるように改善した。遅延があった場合は製造と営業がすぐさま協議し、必要な場合は再度、顧客と納期交渉をする。顧客が承諾すれば、新しく取り決めた納期を守るべく作業に取りかかるという方式だ。「納期厳守は経営品質を高めるうえで避けて通れない」(鬼頭明孝社長)と、遵守率の向上に努めた。

 社長の熱意と秋山ITCの徹底した分析によって、システムおよびそれを取り巻く人間系の改善策が明確になった。システムの開発は、長年、鬼頭精器製作所のITシステムを請け負ってきた中堅SIerのセント・ロード(大瀧雅之社長)が担当した。システム設計に欠かせないワークフロー図は、秋山ITCが鬼頭精器製作所の経営陣の同意を得たうえでセント・ロードに渡す。こうすることで、SIerは「開発に専念することができた」(セント・ロードの小嶋健司営業部長)という。

 システムが完成したのは07年9月。製造工程の可視化に伴い、生産リードタイムの短縮に本格的に取り組んだ。03年当時は納入までの平均リードタイムが42日間だったのを、08年には29日間に短縮。最終的には14日を目標とする。納期の遅れによって深夜・早朝まで作業がずれ込むこともなくなり、また、工場内の余剰在庫の削減によってキャッシュフローも大幅に改善した。

 一連の改革では、品質管理のISO9000シリーズの厳格な運用や、社員6人が機械加工系の国家技能検定1級を取得するなど、能力の高さが第三者にも分かるようにした。世界同時不況の影響で、足下の受注は底ばいの状態が続く。幸い中部地区は、鬼頭精器製作所の既存客の多くを占める輸送機や工作機械のメーカーだけではない。例えば、航空宇宙産業や太陽光発電など環境ビジネス絡みの案件も増えてきており、「納期遵守率の向上やリードタイムの短縮といった実績を武器に、新規顧客を開拓する」(鬼頭社長)と、意欲を示す。既存客が戻ってくる頃には、不況前より大幅に強化されたビジネス基盤をもつ企業への成長を目指す。
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