ITよりも大きな市場に

 火力・水力・原子力発電に加え、風力・地熱・ソーラーなど、多様化する供給源。一方で家庭や事務所、工場、EV(電気自動車)などの消費を総合的にコントロールすることは容易ではない。ITを用いたグリッド制御でこれらすべてのエネルギーの供給と消費の最大効率化を目指す。それが「スマートグリッド計画」である。

 スマートグリッドでは、電力需給を常時モニターし、負荷変動に応じて供給源の切り替えや送電量制御を瞬時に実行する。もちろん、多様化する太陽電池や風力発電などを既存の送電線に安定的につなぎこむ技術も必要だ。さらに、夜間、家庭でEVに充電したり、場合によってはEVから電力応援をもらったり、また家庭用電力貯蔵装置となるバッテリを置くことも想定されている。

 スマートグリッドの要となる巨大ネットワークは、国家規模のITインフラとなり、オラクル社CEOのラリー・エリソン氏が「スマートグリッドはIT市場よりも大きい」と言及したように、IT業界から熱いまなざしが注がれている。この背景には、単にエネルギー問題だけでなく、老朽化した米国の送受電設備という事情がある。

 オバマ政権の「グリーンニューディール政策(総額600億ドル超、日本の国家予算に匹敵)」では、スマートグリッドを導入することで電力インフラを一気に高効率で安全性の高いシステムに変え、あわせて大幅な雇用増も狙う。この目標に向けて、政権発足と同時に40億ドルを超える開発予算が投入された。プロジェクトには、多様な企業や組織が参画する。従来からの発電会社と太陽電池発電や風力発電の電源供給会社、それらから電力を購入して配電する送電会社(日本の場合は電力会社が発電と送電を一括で担っている)、スマートグリッドのネットワーク化にはGE、オラクル、シスコ、グーグルなどのほか、連邦政府や州、そしてEV企業の参加も決まった。

バッテリ交換の新ビジネス

 こうした動きを背景に、シリコンバレーのベタープレイス社は「EV用バッテリ交換ステーション」を開発し、民間でグリーンニューディール政策を支えている。創業者はSAPの次期CEOと目されていたシャイ・アガシ氏だ。氏の構想は、EVのバッテリをリースで扱い、全自動で交換できるステーションを開発すること。開発競争が激しく最もコスト高のバッテリをリースにすることでEV価格を下げ、ガソリンを買う代わりに充電されたバッテリを交換ステーションで入れ替える。旧式となったバッテリは家庭用の電力貯蔵装置に――そんな日も近い。


 「スマートグリッド」――それは米国の「チェンジ」を象徴するプロジェクトだ。プロジェクトの中核はエネルギー省、その舵を取るのは新任のスティーブン・チュー長官である。1997年、エネルギー物理の研究でノーベル賞を受賞し、その後バイオシステムの研究を進め、同時に化石エネルギー代替技術を幅広く研究してきた。シリコンバレーのスタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレイ校の教授、国立ローレンスバークレー研究所の所長を務めたチュー長官が、米国だけでなく世界を視野に入れた新エネルギー政策の旗を振る。狙いは、「科学と技術で強い米国の再生」である。

【著者紹介】
八木 博
1995年から米国在住。01年、三菱化学を早期退職し、シリコンバレーでIMAnet Inc.設立、CEOに就任。現在はクリーンテック関連の技術・市場・特許調査とスタートアップおよび大手企業の連携マッチングを手がける。04年、シリコンバレーの大学連携団体JUNBAを創設。09年6月までシリコンバレーの異業種交流団体SVMFの会長。現在、両団体のアドバイザーを務める。