2006年、「クラウドコンピューティング」という言葉がシリコンバレーで生まれた。それから2年が経過し、クラウドは初期市場の“裂け目”を越えたといわれる。今後は主力市場を形成するとみられるが、その立役者を演じたのは「アマゾン」だ。同社CEOのジェフ・ベゾス氏が描く戦略を2回に分けて紹介する。

クラウドは裂け目を越えた

 米国市場は昨年1年間、『クラウドコンピューティング』で沸き返った。この言葉はグーグルCEOエリック・シュミット氏が2006年、ここシリコンバレーのサンノゼ市で行われたカンファレンスで使ったのが始まりだ。そして同年3月にアマゾンのストレージサービスS3(Simple Storage Service)が、同年8月にはコンピュート(計算)サービスEC2(Elastic Compute Cloud)がスタートして、クラウドの幕が上がった。

 クラウドは初期市場から次への重要な裂け目を越えた。これはジェフリー・ムーア氏の理論に調査データを適用した結果である。そして、今後3年でクラウドは主力市場にのぼり詰める。氏は自らの著書「裂け目を越える(Crossing the Chasm)」の中で、一つの技術が市場に浸透して成功を収めるには、いくつかの裂け目を越えなければならないと指摘している。


 この裂け目とはユーザーセグメントのことだ。初期市場とは「技術革新を好み、物事に興味深く、すぐに使いたがる人たち」を指す。主力市場を構成するのは「何事にも保守的な人たち」だ。これらの層によって新しい技術の受け入れ方は違う。早い物好きの人たちは新技術への興味だけで使いはじめるが、主力市場の人たちを動かすためにはマーケティングの力が欠かせない。

アマゾンの総合戦略


 こうした認識のもとに登場したアマゾンWebサービス(Amazon Web Service=以下AWS)は、同社の総合戦略の一環にほかならない。同社は1995年創業、すぐにオンラインブックストア・ビジネスを確立し、その後の01年に大手小売業のサイト内誘致、06年にはAWS、同年9月物流サービス受託、07年支払決済サービスを開始した。つまり、オンラインブックストアで培ったITや物流、決済などのすべての技術要素を商用化してきたというわけだ。

 AWSではEC2やS3ばかりが目立つが、物流や決済もその一環であり、米国のユーザーではこれらを総合的に利用したシステム構築も多い。すべてはCEOジェフ・ベゾス氏の描き出した総合戦略である。

クラウドコンピューティング―技術動向と企業戦略 【著者紹介】
森 洋一
近著「クラウドコンピューティング―技術動向と企業戦略」では、クラウドの背景を解説し、仮想化やグリッド技術、プロバイダの事例、プライベートクラウドの登場からデータセンターの対応、態勢を立て直しつつあるIBMやマイクロソフト、オラクル、サンなどの最新戦略について分析している。