2006年、シリコンバレーのサンノゼ市で行われたカンファレンスにおいて、グーグルCEOのエリック・シュミット氏が初めて唱えた「クラウドコンピューティング」。この言葉が実像となって姿を現したのは、アマゾンの功績によるところが大きい。06年3月、アマゾンのストレージサービスS3(Simple Storage Service)が、同年8月にはコンピュート(計算)サービスEC2(Elastic Compute Cloud)がスタートして、クラウドの幕が上がった。そして08年、クラウドは初期市場から主力市場にステップアップしたのだ。その陰には、アマゾンWebサービス(Amazon Web Service=AWS)という総合戦略があった――ここまでの経緯を前回に解説した。


ディベロッパー重視が成功要因

 クラウドにはいくつかの形態がある。アマゾンのそれは、インフラを提供するIaaS(Infrastructure as a Service)だ。Google App Engineはプラットフォーム提供のPaaS(Platform as a Service)、Salesforceはアプリケーションをサービスとして提供するSaaS(Software as a Service)である。

 AWSが伸びた理由は最初にスタートしたことだけではない。IaaS自身がPaaSやSaaSを内包していること、そして何よりもAWSの初期ユーザーとなるデベロッパー重視にある。初期利用を彼らに開放して結果をフィードバックしてもらい、それを製品やサービス改善に役立てたのだ。まるでオープンソース製品のようだ。同じIaaS市場では、GoGrid、FlexiScale、SkyTapなども動き始めた。

 発表から3年間、AWSは徐々に進化し、今では各種LinuxだけでなくWindowsも選べるし、ミドルウェアや言語など、ほとんどが自由になった。すべてはデベロッパーの視点からの改良である。こうなればISV(独立系ソフトベンダー)も見逃さない。多くのISVがAWSになだれ込むなか、8月12日には、ISV4社による提携発表があった。うち2社(TalendとJasperSoft)はオープンソースの会社だ。仮想マシン・ソフトウェア管理のRightScale、データ統合のTalend、データウェアハウスのVertica、BI分析のJasperSoftによる統合BI(ビジネス・インテリジェンス)ソリューションスタックの提供である。

 こうしてAWSの『この指とまれ作戦』は成功した。ポイントは、デベロッパー重視とオープンソース近似戦略の採用。これらがビジネスの先行優位との両輪となった。昨年度、AWSのインターネット利用帯域幅は、同社の本業であるオンライン・ショッピング事業を超えたと聞く。米国を襲っている大不況をよそに、AWSは売り上げを伸ばし、核ビジネスになりつつある。

【著者紹介】
森 洋一
 米国シリコンバレー在住。日本ユニシス入社、リアルタイムシステム設計と開発、流通/オープンシステム・マーケティングなどに携わり、1994年より米国勤務。2002年退社、シリコンバレーにオフィスを開設、ジャパンエントリーとテクノロジーリサーチャーとして活動。著書「クラウドコンピューティングー技術動向と企業戦略」のほか、雑誌、新聞などにも数多く寄稿している。