そこで重要になるのが「見送られやすい案件」と「見送られにくい案件」の見極め方だ。一般的に、会計や販売などの基幹系システムやセキュリティ関連のソリューションは不況でも堅調で、情報系システムやサーバーなどのハードウェアは、IT予算削減の対象となりやすい傾向はある。

 しかし、一番重要なのは、ユーザー企業がITに取り組む「姿勢」と「予算状況」だ。いくらセキュリティが重要であるという認識をもっていても、割ける予算がまったくなければ身動きが取れない。逆に、社内コミュニケーションの改善が自社の最も大きな課題であると経営層が確信していれば、そこに優先的に予算を割くことになる。こうしたユーザー企業の意向や状態を読み取ることが重要だ。

 これを実践するのは、簡単ではない。実は、「ユーザー企業が自身の意向や状態を認識できていない」ケースが少なくないのだ。大企業とは異なり、中堅・中小企業は、経営とITを結ぶ役割を担う人材が不在であることが多い。ゆえに、あるIT投資を決断したとしても、それが業績改善のため(by ITの投資)なのか、それともITを安全/効率的に活用するため(for ITの投資)なのか、曖昧なままになってしまいやすい。そうした状態でIT投資を進めれば、目的も不明確になり、得られる効果も十分ではなくなる。このプロセスを繰り返してきた結果、「ITは仕方なく投資するもの」という意識が根付いてしまい、冒頭に例示したグラフのように「現状を維持する以外、特にITに対して投資する必要はない」という現状維持派が多くを占める結果になってしまっている。

 では、どうすればいいのか。ユーザー企業が自身も気付いていない「by ITの投資」と「for ITの投資」を、どうやって区別すればいいのだろう。そのための一つの手段が、IT投資状況と業績状況という二つの観点で「望ましいIT投資項目」に対する意向を探ることだ。

 ITを提供する側が「このソリューションは見込みがある」と判断する際、その根拠は当然ながらユーザー企業の意向を何らかの形で汲み取ったものだ。だが、それは「IT予算を確保し、ソリューションへの投資を検討している」状態のユーザー企業の意見であることが多く、その取り組みが「by ITの投資」なのか「for ITの投資」なのかはわからない。

 経済環境の変化に振り回されないためには「十分な予算を確保できるユーザー企業のfor ITの投資」ないしは「ユーザー企業にとって重要度の高いby ITの投資」が何かを見つけることが非常に重要だ。そのためには、ユーザー企業のIT投資状況だけでなく、業績状況もあわせて把握する必要がある。

 図2と図3は、年商500億円未満のSMBに対し、「自社にとって役立つと考えるIT投資項目」をたずねた結果である。図2は「IT投資を増やすかどうか」の意向と各IT投資項目の重要度をプロットしたものだ。プラスの値となっている項目は、IT投資の金額を増やそうとしているユーザー企業ほど重視する傾向が強い項目ということになる。図3は「自社の経常利益が今後増加するか」の見込みと、各IT投資項目の重要度の関係を同じくプロットしたものだ。プラスの値となっている項目は、業績のよい企業が重視する度合いが強いということになる。

図2 IT投資の増減と役立つIT活用項目との関係

図3 経常利益と役立つIT活用項目との関係

 普通に考えると、これら二つのグラフは一致しそうな気がする。だが実際には、同じ項目でもプラスとマイナスが入れ替わっているものがある。IT投資増減を軸としたグラフではプラスとなっているのに、経常利益増減でマイナスとなっている項目は、「for ITの投資」として認識される傾向が強いものだ。

 図では「業務アウトソーシング」などがそれに該当する。業務アウトソーシングは経営を筋肉質に変えるための施策として「by ITの投資」と捉えられがちだが、SMBでは部分最適で構築/運用された情報システムの整備から始めないとアウトソースする業務を明確にすることができない。そのため、まず「for ITの投資」が先行することになるわけだ。

 逆に経常利益増減を軸としたグラフでプラスであり、IT投資増減を軸としたグラフでマイナスとなっている項目は、「by ITの投資」として認識されやすい。図では、「生産管理システム改善による製造コストの削減」がそれに該当する。厳しい経済環境でありながら、中堅・中小の製造業が生産管理システムへの投資に意欲的である現状は、自社の生き残りをかけた「by ITの投資」の重要性を物語っている。

 このように、ユーザー企業もITを提供する側も「そのソリューションが『for IT』なのか、『by IT』なのか」を曖昧にしてしまいがちだ。そうした時には、単に「どんなソリューションが有効なのか」を探るだけでなく、IT投資状況と業績状況という二つの軸を合わせて考えることで、「ユーザー企業にとって本当に必要なソリューション」がみえてくる。本稿が、ユーザー企業とITを提供する企業の双方にとって、有益なヒントとなれば幸いである。

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