今年8月1日、ブランドダイアログ(稲葉雄一社長兼CEO)は、通信事業者のKDDI(田中孝司社長)、CRM(顧客情報管理)パッケージを出すエイジア(美濃和男社長)と資本・業務提携した。このニュースは、瞬く間にIT業界に広がり、法人向けIT業界では最近なかった大型の戦略提携として話題を呼んだ。KDDIが法人向けクラウドの新ブランド「KDDI MULTI CLOUD」を立ち上げたのが6月下旬。今回の提携作業と同時進行だったことは明らかだ。KDDIの呼びかけから始まったブランドダイアログとの提携協議は、1年半に及んだことになる。

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KDDIが持ちかけた戦略的な提携話

 今回の資本・業務提携でKDDIがリリースした「KDDI Knowledge Suite」は、ブランドダイアログが開発した「Knowledge Suite」のOEM製品で、KDDIブランドで提供される。KDDIのクラウドサービス企画開発部の傍島健友課長が「キラーアプリケーションを探していた」と言う通り、「KDDI Knowledge Suite」は、「KDDI MULTI CLOUD」のサービスのなかでも、企業で活用するスマートフォンを普及させるための“最終兵器”に位置づけられる。

 企業がスマートフォンを導入する目的は、今まで社員に貸与してきた携帯電話とは明確に異なる。携帯電話は通話が主たる目的だったが、スマートフォンは、モバイルパソコンの延長線上に位置づけられ、パソコン以上に普及が期待されているモバイル・デバイスだ。その法人向けスマートフォンが普及するためには、アプリケーションが重要な役割を果たすことは自明の理だ。スマートフォンの法人利用には、多くの障壁がある。端末やアプリケーションでその課題を克服するには、多くの革新的なアイデアや技術の実装が必要だ。そこで、ブランドダイアログとKDDIは「そのルールとなる機能やアイデア、ユーザーインターフェース(UI)など、法人利用にこだわって半年をかけて共同研究し、リリースに漕ぎ着けた」(稲葉社長)。コンセプトづくりのテーマは「安全性と利便性の追求」だったという。

AndroidアプリのUIと安全性を追い求める

 ブランドダイアログが開発・提供する営業支援SFA/顧客管理CRM「Knowledge Suite」は、利用目的に応じて多岐にわたる機能を実装している。グループウェアの「GRIDYグループウェア」をはじめ、営業支援・顧客管理の「GRIDY SFA」、名刺デジタル化サービス「GRIDY名刺CRM」、Webフォーム生成・分析ツール「GRIDY リードフォーム」、問い合わせ対応管理「GRIDY CENTER」などに加え、ウイングアークテクノロジーズとの業務提携で実現した集計・レポーティングツール「GRIDY BI」、そして今回の資本・業務提携でエイジアのCRM「WEB CAS」を実装したメールマーケティングツール「GRIDYメールビーコン」がある。

 多くのサービスに多くの機能を実装する「Knowledge Suite」だが、実際、すべてのサービスや機能を使いこなしている企業は少ない。企業が導入を検討する段階では、その企業の課題を克服するための機能やサービスが選択され、そこから「Knowledge Suite」の導入が進むという。

 KDDIとの共同研究では、「KDDI Knowledge Suite」向けにAndroid端末用のアプリを開発した。「利便性や安全性をどこまでアプリ側で担保できるかを追求しなければならない」(稲葉社長)という思いで開発に取り組んできたこのアプリを、ブランドダイアログ側では「GRIDY SmartPhone for Android」として提供する。

 「GRIDY SmartPhone for Android」の使い勝手を重視したUIへのこだわりには、相当なものがある。これまでに出ているスマートフォンアプリのアイコン群は、スマートフォン普及のけん引役となったアップルのiPhoneやAndroid端末のように、マス目のような四角いものがほとんどだ。しかし「GRIDY SmartPhone for Android」は、珍しく横バータイプ(ブランドダイアログでは「アクションバー」と呼ぶ)のアイコンを採用したシンプルなインターフェースをもつ。稲葉社長は、「これには深いわけがある」と話す。「ビジネスパーソンが、アプリをどこで、どんなシーンで利用するかを想定し、追求した。例えば、『片手にカバン、もう片方の手にはスマートフォン』で、歩きながら操作するシーン。携帯電話を持つ手や操作する手は、なぜか利き手とは限らない。右利きでも左手で操作し、左耳で携帯電話をかける」(稲葉社長)と、カバンを片手に、スマートフォンをもう一方の手に持ち、アプリのアイコンを操作する指の動きまでを想定していた。

 そこで開発に注力したのは、カバンを持ちながらスマートフォンのアプリを親指で操作するのに適したUIだったわけだ。右手と左手のどちらでも、同じストロークでワンタッチ操作できるようにするためには横バータイプが理想的と判断し、さらに、歩きながら操作するときに起きる手のブレを想定し、太い親指での誤操作を減らすために、横バーの縦幅の研究に時間を割いたという。「ファーストアクションの誤操作を防ぎ、目的の機能にいち早く到達することができるアクションバーと、アクションバーで利用頻度の高い機能を上位位置に表示することもできる」と稲葉社長。単純でシンプルな操作機能だが、想定利用シーンにこだわり抜いたUIといえる。


Googleマップと連携した営業支援機能を搭載

 また「GRIDY SmartPhone for Android」は、スケジュールに入力してある住所をタップするだけで、Googleマップと同期して、目的の場所を確認することができる。GPS(全地球測位システム)と連動することで、現在地から目的地までの道を表示したり、顧客情報を引き出して外出先の近辺の顧客を検索したりなど、外出時の営業支援機能として利用できる多くの利便性を備えている。営業活動の円滑化を支援する機能へのこだわりは相当なものだ。


 セキュリティへの配慮も徹底している。Androidスマートフォンは、急速な普及の一方で端末やアプリを利用する際のセキュリティ上の問題も指摘されており、最近では、モバイル・デバイス・マネジメント(MDM)としてツール類が多く登場している。多くの機能を搭載する「Knowledge Suite」は、企業の課題に即して利用しない機能を隠すことができる「減らすカスタマイズ機能」を実装。「GRIDY SmartPhone for Android」は、スマートフォンで利用する機能を制限できる。この機能は、「多くの企業へのヒアリングで得た情報を集約して考え出した」(稲葉社長)と、企業が個別に策定しているセキュリティポリシーに柔軟に対応するためのものだという。社内で必要な機能と、外出時に紛失などのリスクを回避するためのアクセス制限機能などを、柔軟に設定できるのだ。


 そうすることで、企業の重要・機密情報へはスマートフォンからアクセスさせない。例えば、「SFAは顧客情報や営業情報が満載なので外からのアクセスを制限したい」など、自由に設定できる。アクションバーを消したり増やしたりは、IT管理者の初期設定で自由に変更できる。また、今年3月、KDDIが米Three Laws of Mobility(3LM)と提携し、3MLのAndroid向けセキュリティサービスの提供の開始を予定しているが、今回の業務・資本提携でリリースした「KDDI Knowledge Suite」は、このサービスを使った紛失時の暗号化サービスと連携し、より強固なセキュリティをもつ業務用スマートフォンアプリに仕上がっている。

 デザインや機能にこだわりすぎ、利用者の視点をないがしろにしたアプリが散見されるなかで、ブランドダイアログの稲葉社長ならではの顧客視点を反映させたマーケティングの視点がうかがえる。「今後は、『Knowledge Suite』のすべての機能をスマートフォンに実装し、タブレット端末を含むスマートデバイスでの利用シーンを模索すべく開発を続ける」(稲葉社長)と、Android端末に限らず、マルチデバイスに対応していく考えだ。

 この連載も第5章まで来た。稲葉社長の考えや洞察、そして自社アプリを拡販するための戦略的な提携。トップダウンではあるが、この推進力がブランドダイアログの機動力になっているに違いない。社員とともに夢を実現させる――稲葉社長は、この言葉をよく口にする。社員わずか40人程度の小所帯の同社が発想する顧客視点のこだわりは、日本国内のクラウド市場に今後どのような影響を与えるのか。また、同社の株主にKDDIとエイジアという上場企業の“援軍”がついたことで展望が開け、大きな転機を迎えたことは確かだ。最終章となる第6章では、将来戦略やビジネススキームを聞き出し、ブランドダイアログの世界を一挙に紐解くことにしよう。(谷畑良胤)