視点

30代だからこそ生まれたM&Aビジネス

2013/02/28 16:41

週刊BCN 2013年02月25日vol.1470掲載

 エーアイエスビーホールディングス(AISB)という会社が、日本企業とアジア企業との間を取りもつM&Aなどの企業連携の仕事をしている。その報酬は、着手料が350万円、交渉業務を開始した場合のリテーナーの報酬が毎月100万円、M&Aなどが成功した場合の報酬は、ケースにもよるが、買収金額の5%となる。

 こんな高額な条件なのに依頼案件は引きも切らず、60社に達している。36歳の若者が手がけるこんな商売が、どうして成り立つのか。ここを掘り下げると、今日の日本企業、日本人の構造や性格に行き着く。

 AISBは、シンガポールに本社を置いてアジアの地場企業と業務提携、M&Aなどの企業間連携を行う会社だ。大手商社を辞めた後、AISBを設立した上原正之社長は、こう語る。「言いにくいのですが、日本企業のビジネスの仕方が固定的になっているのです。企業間連携を行っているとしても国内の取引、日本人同士の取引、そして従来から取引をしているアジア企業との間のものに限られます。なかなか新しい企業を探し出してということにはなっていません。商社で仕事をしていて限界を感じて、このビジネスを始めたのです」

 日本人同士でという感覚は、日本がアジアで唯一の経済大国の時代に育った世代の人たちにとってはやむを得ないことなのかもしれない。ひるがえって今の30代の人たちをみれば、ものごころがついたころからずっと不況でデフレである。一方、アジアはこの20年、高度成長の時代を謳歌している。そもそも40代から上の世代と30代では日本経済の理解、アジアへの見方が大きく異なる。

 もう一つは、多くの日本人がもつ限界の話だ。日本人同士でさえ、知らない人と話をするのが苦手なくらい繊細な民族なのである。その点、AISBはシンガポールのほかにタイのバンコク、インドのムンバイ、バンガロール、インドネシアのジャカルタに拠点を置いているが、上原社長以外の社員はすべてタイ人、インド人、インドネシア人である。現地の市場、企業を知り尽くしている彼らが、日本企業から依頼のあった案件に基づいて現地企業に働きかける。茶目っ気があって話好きなタイ人やインド人たちが直接現地の企業に入り込むやり方は、成功率が高いと想像がつく。

 上原社長は、「この仕事は、昔はともかく、今の日本企業ではどこもやっていません」という。だからこそ、若者が設立した、海のものとも山のものともわからない会社に60社もの依頼案件が寄せられたのだ。

アジアビジネス探索者 増田辰弘

略歴

増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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