SIerの再編が相次いでいる。大手のNTTデータや野村総合研究所(NRI)などが、中堅・中小の情報サービスベンダーのグループ化や一部出資を実施。国内情報サービス市場の成熟度合いが増すなか、業界全体で“規模のメリット”を追求する動きが再び活発化している。しかし一方で、肝心の大手SIer自身の国内ビジネスが伸び悩むケースが目立っており、「伸び悩んでいる企業同士がいっしょになって、果たしてプラスに転じることができるのか」(業界関係者幹部)と危惧する声もあり、難しい選択を迫られている。(安藤章司)
「当社は国内を見切って海外へ出て行くのではなく、国内を伸ばしながら、海外も伸ばしていく」。NTTデータの山下徹社長は、国内ビジネスにテコ入れする考えを改めて示した。同社は、中堅有力SIerのJBISホールディングスへの株式公開買付け(TOB)を実施するとともに、データマイニング技術に強みを持つ数理システムも2月中旬に子会社化。ここへきて国内におけるM&A(企業の合併と買収)を再び活発に行っている。野村総合研究所(NRI)も味の素グループの情報システム会社「味の素システムテクノ」を連結子会社化し、4月1日から「NRIシステムテクノ」に社名変更する予定だ。
国内で再びM&Aが活発化してきた背景には、大手SIerといえども背に腹はかえられない逼迫した事情がある。NTTデータは中期経営計画で2013年3月期の連結売上高1兆5000億円を目標に掲げている。内訳は、国内1兆2000億円、海外3000億円だ。この計画の立案当初の2009年は、国内での売り上げが1兆円を超え、海外がようやく600億円程度まで拡大してきた頃で、多くのSI業界関係者は「海外3000億円とは、何を夢見てるんだ?」と揶揄した。当のNTTデータ自身ですら「まずは1000億円を目標にしましょうと山下(徹NTTデータ社長)に上申したが、いつの間にか3000億円が目標になっていた」と、グローバルビジネスを推進してきた榎本隆副社長は振り返る。
結果はどうか。海外ビジネスは積極的なM&Aが効を奏するかたちで、2012年3月期の海外売上高は約2000億円規模まで拡大する見込みだ。当初目標の3000億円も欧州債務危機などの不安要因はあるとはいえ射程圏内だという。むしろ視界不良の度合いが深まっているのは国内だ。09年3月期に1兆781億円あったNTTデータの国内売上高は、12年3月期の予想では1兆円。800億円近く目減りする見通し。つまり、海外の伸びを国内の減少が喰う構図である。NRIも足下の業績は堅調に推移するものの、年率7%で売り上げを伸ばすという長期経営計画にはまだほど遠い状況だ。
そこで打ち出したのが、国内SIerを対象としたM&Aである。JBIS-HDや数理システム、味の素システムテクノをみると、NTTデータやNRIがもっていない優良顧客層を抱えていたり、特殊な技量をもつという共通点がある。中国やインドで行われているソフトやシステムを開発する人的パワーの確保を主な目的とするM&Aとは対照的だ。国内では顧客層を広げて新たな受注先の確保を重視し、アジア成長国では開発力を得る構図が鮮明に浮かび上がってくる。例えば、NTTデータは中国では4000人、インドでは1万人規模のSEを中心とした開発パワーを獲得。13年3月期には国内を中心としたNTTデータ単体のソフト外注金額のうち10%を中国やインドをはじめとするオフショア開発に移行する計画を示す。

NTTデータの主な国内M&Aと資本提携の経緯
国内市場の成熟度合いが増すなか、情報サービス業の再編は抗いようのない大きな潮流ではあるが、この潮流に乗れるのは、JBIS-HDや数理システム、味の素システムテクノといった自前で優良顧客を多数抱えていたり、特殊な技術をもった会社が中心。大手からの下請け仕事が売り上げの多くを占める会社は、開発力は提供できても、連結売上高を増やすという国内M&Aのニーズは満たせない可能性が高く、再編の二分化が進む見通しだ。
表層深層
情報サービス業の業界再編で悩みどころになるのが、プログラマを中心とする開発人員の扱いである。国内市場が右肩上がりの時代には、100人単位で人手を集めて労働集約的に開発するスタイルが普通だったが、今は昔。優良顧客に新しい情報システム商材を果敢に提案して受注を取ってくる上流SEやコンサルタント的な営業人員が重視される。こうした営業力や顧客基盤をもつSIerこそが再編の潮流に乗り、将来の可能性をものにしている。
旧住商情報システムと旧CSKが経営統合したSCSKのケースでは、CSKのプログラマの多さが指摘されたが、旧両社の間で重複顧客が20%しかなかったことと、旧CSKがクラウドビジネスに欠かせない盤石なデータセンター設備を多数保有していたことなどから経営統合に至った。それでも、話合いから実際の統合まで2年の歳月を要している。
SIerの幹部同士では「現場の“ものづくり”をないがしろにするな」「ある程度の製造ラインの海外移転はもはや避けられない」と、時に激しく意見がぶつかり合う。
ただ、すべてが海外での開発になるわけではない。下請け仕事が多いSIerは、たとえ再編の潮流に今は乗れなくても、一定の規模以上で安定的に仕事を得る“コアパートナー”として勝ち残る道がある。大手は国内外注先の絞り込みを進めており、開発生産性や特定業種の強みを伸ばすことで“選ばれるパートナー”になることが求められている。