入居企業数が激減したIT産業集積地のソフトピアジャパンを再生することを目指して、県の情報産業課は2009年度に「GIFU・スマートフォンプロジェクト」を開始した。全国に先駆けてスマートフォンアプリ開発に特化した講座や交流会、人材育成などを施した結果、入居企業数は増加。県内にスマートフォンアプリ開発の受託案件が増加するなど、新たなビジネスチャンスを生んでいる。(取材・文/真鍋 武)
全国に先駆けたアプリ開発講座

岐阜県情報産業課
情報産業係
森達哉主査 「GIFU・スマートフォンプロジェクト」は、入居企業が激減したソフトピアジャパンを再生することを目的とした、スマートフォン関連の人材の育成や起業を促進するプロジェクトだ。09年度に開始したが、当時、まだスマートフォンの普及は始まったばかりで、市場がどれだけ成長するのかは未知数であった。スマートフォンに目をつけた理由について、情報産業課情報産業係の森達哉主査は、「岐阜県には、県が運営する情報科学芸術大学院大学(IAMAS)があり、最先端のIT業界の知識に詳しい教授が豊富であったことや、ソフトピアジャパンのインキュベーション施設『ドリーム・コア』には、『セカイカメラ』など、スマートフォンアプリ開発で先駆者となっていた頓知ドットなどのベンチャー企業が在籍していた経緯があって、市場が伸びることや、アプリの開発人材が不足することは予測できた」と説明する。
プロジェクトでは、まず、「ドリーム・コア」の施設内に、Macなどスマートフォンアプリを開発するための環境を整備した「Mobilecore(モバイルコア)」を開設し、無料のスマートフォンアプリ開発講座を実施した。「当時、アプリ開発講座に取り組んでいる自治体は全国でも少なかった。また、講座を開設していても、有料で、それも料金が10万円くらいかかるなど高価だった」(森主査)。そのため、岐阜県内だけでなく、首都圏など県外からの申し込みが相次いだ。09年度には93日間講座を実施し、610人が参加。10年度には175日開催し、1446人が参加するというように、盛況だった。

「ドリーム・コア」にはITベンチャーが多数入居している また、「当時、スマートフォン開発者がお互いに意見を交換したり、アプリを開発するうえでの課題を相談したりできる場所がなかった」(森主査)ことを考慮して、スマートフォンアプリ開発者のための交流会として「モバイルカフェ」を、週2回開催。さらに、「ドリーム・コア」では、スマートフォンアプリ開発企業が入居を希望する場合の優遇措置として、賃料を6か月間無料で提供した(現在は3か月)。
10年度からは、講座や交流会だけでなく、人材育成を積極的に行った。政府がリーマン・ショック以降の不況から脱却することを目的として設けた「緊急雇用特別基金事業」を活用して、ソフトピアジャパンの入居企業などに、スマートフォンアプリ開発の人材育成を委託。10年度は100人、11年度には120人を育成することができた。
ガラ空きだった施設が活性化
こうした施策によって、ソフトピアジャパンに入居するスマートフォンアプリ開発企業は増加。13年8月時点で、151社の企業が入居している。入居企業数が底割れした09年から約30社増えたことになる。それも、従業員数5人以下のベンチャー企業の割合は、10~12年の3年間に11.2%増え、ソフトピア全体の37.1%となっている。

「Mobilecore」では、講座やセミナーが開かれる。Macが20台設置してある
岐阜IT協同組合
馬渕雅宣理事長 森主査は、「岐阜県は財政難で、十分な予算が取れなかっただけでなく、プロジェクトを始めた頃は、スマートフォンに対する認知度が低くて、県庁の同僚から『本当にうまくいくのか』と疑問視されることもあった」という。スマートフォンの市場が伸びることを信じて、全国に先駆けた施策を講じたことが成功に結びついたのだ。
県から人材育成を請け負った組織の一つ、岐阜IT協同組合は、2010年に10人、11年に15人のアプリ開発者を育成した。岐阜IT協同組合は、ソフトピアジャパンの出身企業を中心とする岐阜県のITベンダー25社ほどが参加しており、拠点を「ドリーム・コア」に設けている。馬渕雅宣理事長は、「プロジェクトを開始するまで、『ドリーム・コア』は閑散としていて、人が歩く姿を見ることがあまりなかった。しかし、最近では企業の数は順調に増えてきて、企業間での交流も活発だ。また、岐阜IT協同組合では、自治体や民間企業のシステム構築案件を共同で受注する事業を展開しているが、最近はスマートフォンアプリ開発の案件が増えている」という。
「GIFU・スマートフォンプロジェクト」によって、着々と再生の道を進んでいるソフトピアジャパン。森主査は、「将来、ソフトピアジャパンが日本のスマートフォンアプリ開発のメッカと呼ばれるように、盛り上げていきたい」と熱い思いを語る。
現在でも、アプリ開発講座やモバイルカフェを開催している。そのほか「モバイルコア」では、施設を開放して、いつでも誰でも最新のIT機器を利用できる体制を整えている。さらに、県立大垣商業高等学校や県立岐阜商業高等学校では、モバイルコアの施設を活用して、スマートフォンアプリ開発の授業を開催している。産学官が連携して、スマートフォンアプリ開発の先進地域となるための取り組みを進めているのだ。