岐阜県のIT市場の成長率は、ほぼ横ばいの状況にある。情報産業協会の会員企業は、愛知県のトヨタ自動車関連の案件を獲得しやすく、また、大手の親会社をもつ企業も多くて、受託ソフト開発のビジネスが他地域ほど困窮している状況ではない。一方、IT産業集積地のソフトピアジャパンは、不況の影響などで入居企業数が激減。県は新たな対策を打ち出して、再生の道を模索している。(取材・文/真鍋 武)
県内IT市場は横ばい
岐阜県のIT市場は、全国のなかで中位クラスとなっている。2010年版の経済産業省の「特定サービス産業調査」によると、岐阜県のソフトウェア業の売上高は全国30位の118億7300万円で、情報処理・提供サービス業の売上高は全国20位の172億1400万円だった。ソフトウェア業、情報処理・提供サービス業ともに前年とほぼ変わらない売上高で推移している。
地元のIT企業組織である岐阜県情報産業協会(GIA)には、約40社が加盟している。独立系では、東証1部上場企業の電算システムや、事務機器の販売で強みを発揮するインフォファーム、ユーザー系では、セイノーホールディングスの子会社であるセイノー情報サービスや、イビデンの子会社のタック、銀行系では十六銀行の子会社の十六コンピュータサービス、大垣共立銀行の子会社の共立コンピューターサービスなどが加盟している。
会員企業は、コンピュータの黎明期からオフコンやメインフレームの販売などを手がけてきた、いわゆる古株のITベンダーが多い。近年、受託ソフト開発の案件の減少や単価の下落によって、地方ITベンダーの多くが苦しんでいるが、「GIAの会員企業は、ベンダーごとに地元の顧客を棲み分けて開拓してきた経緯があって、今でも継続的に案件を獲得できている。また、大手の親会社をもつベンダーも多く、下請けの受託ソフト開発をこなしているだけで、ある程度の収益を上げることができている」(GIAの宮地正直会長)という。とくに、岐阜県は、愛知県に隣接している地理的条件もあって、トヨタ自動車関連の受託案件が豊富だ。こんな要因から、受託ソフト開発は、それほど困窮しているわけではない。

センタービルはソフトピアジャパンの象徴 一方で、岐阜県の全産業を合わせた県内総生産(名目)は、2006~09年にかけて4年間連続で落ち込み、約7000億円の減収となっている。2010年には、1.1%プラス成長の7兆934億円に転じたものの、予断を許さない状況だ。宮地会長は、「地方そのものが疲弊している状況にあって、IT産業だけが成長するはずがない。成長するためには、既存のビジネスに固執するのではなく、新しいビジネスを創出することだ」と指摘する。従来型の下請けの案件が中心の受託ソフト開発では、ある程度の収益を見込めるとしても成長はない。近年は、こうした市場の変化に合わせて、ITベンダーも新たな挑戦をしようとする動きがみられる。
再生に向けて発進したソフトピア
岐阜県のIT産業の象徴といえば、大垣市のソフトピアジャパンだ。かつては日本のIT産業の最先端地域であったが、現在は、激減した入居企業の数を回復するための再生に努めている。
ソフトピアジャパンは、1996年にランドマークとなる「センタービル」を建設した後、ITベンチャー育成のためのインキュベートルームを設けた「ドリームコア」など、順次規模を拡大してきた。ソフトピアジャパンのエリア内には、富士通やNEC、NTTコミュニケーションズなど大手企業が拠点を構え、04年には入居企業数が過去最大の177社まで拡大し、日本で有数の産業集積地となった。
しかし、好調は長くは続かなかった。岐阜県は、ソフトピアジャパンの入居企業に対して県内自治体のシステム構築案件を優先して発注するなど、充実した支援体制を敷いていたが、こうした自治体関連の案件が少なくなってくると、メリットが薄れ、入居企業は徐々に減り始めた。08年には、リーマン・ショックによる不況が入居企業の減少に拍車をかけ、09年には最盛期に比べて50社余り少ない122社まで激減。「ソフトピアは岐阜県の負の遺産」といわれるまでに落ち込んだ。
県の財政難も、ソフトピアの経営に大きく影響している。岐阜県は、国の「三位一体改革」などによる地方交付税の大幅な減少や、社会保障関係経費などの義務的経費の増加、過去の公共投資による公債費の増加、リーマン・ショックの影響による税収減などによって、財政状況が悪化していた。10~13年の3年間には、一般財源が毎年300億円程度不足することが見込まれ、県庁では、「行財政改革アクションプラン」を策定。新卒者の採用を見送るなどの措置を講じている。これによって、公共投資に充当することができる予算は減少し、ソフトピアジャパンの改善だけに力を注ぐことができない状況だった。
しかし、09年に転機が訪れた。それは、当時、まだ登場したばかりのスマートフォンに目をつけた情報産業課が、ソフトピアジャパンをスマートフォンアプリ開発の先進地域とすることを目標に、「GIFU・スマートフォンプロジェクト」を開始したことだ。これが、再生への布石となった。次週は、この動きについて詳しく紹介する。