国内全企業のうち、中小企業が占める割合は99.7%にもなる。この数値をみると、中小企業の攻略は、ITベンダーのビジネスを伸ばすうえで欠かせないことがわかる。大手ユーザー企業のIT投資を掴まえるだけでは成長は難しい今、中小のユーザー企業は重要なターゲットだ。これまで本連載では、業種ごとにITビジネスの可能性を探ってきたが、最終回のこの号は業種を問わず中小企業の今を探る。(構成/木村剛士)
【User】中小企業比率が高い流通・建設・サービス業
経済産業省傘下の中小企業庁は、中小企業の定義を「常用雇用者300人以下(卸売・サービス業は100人以下、小売・飲食業は50人以下)または資本金3億円以下(卸売業は1億円、小売・飲食・サービス業は5000万円以下)」としている。2012年4月に公表した中小企業庁のデータによると、第一次産業を除く中小企業数は420万1264企業で、全体の99.7%。中小企業のなかでも従業員20人以下の企業を小規模企業(製造業の場合。製造業以外は5人以下)といい、この比率は87.0%になる。
図1では中小企業を業種別で示した。電気・ガス・熱供給・水道業などの社会インフラ業と、金融・保険業、情報・通信業を営む事業者は比較的中小企業が少なく、一方で宿泊・飲食サービス業、卸売・小売業、建設業は多いことがわかる。
昨年末の安倍第二次政権発足後、上場企業の株価は上昇したが、中小企業の業績はどうか。今年5月に発表された「中小企業白書」によると、中小企業の「業況判断DI※」の2013年1~3月の数値は、2010年1月から3年3か月の間でみて最も改善されている(図2)。中小企業も業績が回復基調に入ったとみていい。業況判断DIを業種別でみると、最も改善されているのが建設業で、次いで製造業。一方で、小売・卸売業が厳しい状況だ。
IT化が進まない中小企業。その理由は何か。ITを導入・活用するために課題を感じていることは全業種で共通しており、「IT人材の不足」「コスト」「従業員のIT活用能力が足りない」の三つに集約される。コストを意識することは、大企業や中堅企業でも同じことだが、IT人材と従業員のITスキル不足は、中小企業独特の悩みだ。
※業況判断DIは、前期に比べて業況が「好転した」と回答した企業の割合から、「悪化した」と答えた企業の割合を引いた数値 【Vendor&Maker】NECと富士通のSMB戦略に注目
中小企業と中規模クラスの企業向けビジネスに強い全国系SIerは、オービックと大塚商会を筆頭に複数存在するが、ここでは大手ITベンダーのNECと富士通のSMB(中堅・中小企業)戦略に注目する。NECと富士通は、ほぼ同じ時期にSMB向けビジネス体制を見直しているからだ。
NECは、2009年10月に完全子会社のNECネクサソリューションズ(NECネクサ)にSMBビジネスに必要な組織や人員を集めて、SMBに特化したSIerに変更した。一方、富士通は、2009年5月に当時東証1部上場企業だった富士通ビジネスシステム(FJB)を完全子会社化。FJBは社名を富士通マーケティング(FJM)に変更して、2010年10月にSMBに特化したSI会社として再出発した。NECと富士通は、本社では全国に存在するSMB向け事業を効率的に展開することができないと判断し、子会社にその役割を担わせたわけだ(図3)。
子会社に中核機能をもたせた基本戦略はNECも富士通も同じ。だが、NECネクサとFJMでは、具体的な施策で違いが二つある。一つは、NECネクサがターゲットエリアを東京、大阪、名古屋に限定しているのに対し、FJMは全国を活動エリアにしていること。もう一つはパートナー戦略で、FJMは富士通の傘下にいたSMBを主戦場に置く約400社のパートナーをFJMの傘下に配置し、富士通グループのパートナービジネスをけん引している。一方、NECのパートナーは依然NECと協業しており、NECネクサは独自のパートナーネットワークを維持している。いわば、NECの場合、NECとNECネクサソリューションズでパートナー戦略は別々に動いていることになる。この点に大きな違いがある。一概に業績では比較はできないが、NECネクサの年商は671億円で従業員2300人、FJMは1700億円で従業員3700人と差が現れている。
FJMの戦略のなかで興味深いのは、地道な調査だ。SMBは全国に広がり、大手企業よりも一社あたりの売り上げが少ない。効率的な営業が求められる。そこでFJMは、本社の調査部門が、ある条件でSMBをカテゴライズし、そのなかで2期連続の増収増益企業を調べてピックアップ。そのうえで、富士通製品の購入実績があるかどうか、ある場合はどんな製品・サービスが入っているかも調査。そのデータを全国の営業所に配布して、FJMの営業担当者とパートナーが共有して営業をかけている。これがパートナーとの協業と、業績向上に結びついている。SMB市場を攻略した成功ケースといえる。
【Solution】情報共有機能のクラウドにニーズあり
中小企業と中堅・大規模企業では、ITの導入率が異なるが、具体的に何のシステムで差が出ているのか。それを示したのが図4だ。大企業で導入率が90%を超える「財務・会計」「人事・給与管理」は、中小企業でも比較的導入率は高い。一方で、大企業では導入率が高いものの、中小企業では導入率が一気に下がるのが「社内の情報共有」「在庫管理」「購買・仕入」だ。
在庫管理と購買・仕入れは、ユーザーの業種によって不要な場合があるが、社内の情報共有は全業種で必要なITシステム。中小企業向けにそれを考えると、社内の情報共有を支援するIT製品・サービスは今後求められる可能性が高い。グループウェアやウェブ会議システム、社内ポータル、社内SNSサービスといった製品・サービスに提案の余地がありそうだ。
では、中小企業に適した提供形態はどうか。中小企業には、初期投資が少なく、システム運用もほぼ不要なクラウドが適しているというが、現時点でクラウドの導入は進んでいない(図5)。社内の情報共有で、クラウドを利用しているケースが2ケタを越えているだけで、それ以外のアプリケーションシステムをクラウドで利用しているケースは3%未満。パッケージソフトを活用したシステムや、オーダーメイド(スクラッチ開発)システムを利用するユーザーがまだ圧倒的に多い。
ただ、少ない費用で始められ、システム運用をほとんど必要としないクラウドは、オンプレミス型システムよりも中小企業に適している。ポイントはITを提供するだけでなく、ユーザーの社内環境に浸透させるためのサポートだろう。従業員のITスキルの乏しさを埋める導入・利用支援を加えることで、クラウド導入の機運を高めることはできるはずだ。