NECネクサソリューションズ(NECネクサ、鈴木良隆社長)と富士通マーケティング(FJM、古川章社長)。ともに、親会社から国内の中堅・中小企業(SMB)向けビジネスを任され、およそ3年前に新体制で再スタートを切ったSIerだ。SMBマーケットは、大企業に比べてITを売り込む余地が大きいといわれ、大手調査会社は高成長を予測する。その市場で、メーカー系SIerの両雄は、どのような戦略を進めてきたのか。(取材・文 真鍋武/木村剛士)
組織再編はほぼ同時期
顧客層を絞り込んだSIer
NECと富士通は、いわずと知れた国内IT市場のライバルだが、競い合いはグループ会社の間にも存在する。その代表例が、NECネクサソリューションズ(NECネクサ)と富士通マーケティング(FJM)だ。両社は、ともにSMB市場に特化したSIerで、事業内容は酷似。親会社が開発・販売するサーバーとパソコンをSMBマーケットに売る力は強く、グループ会社および販売パートナーのなかでトップの実績を誇る。
両社とも、元々は大規模から中小規模のユーザー企業まで幅広くビジネスを手がけていたが、3年ほど前にSMB向けに事業を特化した経緯がある。
NECは、2009年7月、NECネクサをSMBマーケット専門のSI会社に変更することを発表。NECは、自社とグループ会社からSMBマーケットに必要な組織を抜き出してNECネクサに移管し、NECネクサを生まれ変わらせ、09年10月1日付で新たな体制でスタートを切った。
一方、FJMはもともと富士通ビジネスシステム(FJB)という東証1部上場会社であったが、09年5月、富士通はFJBを完全子会社化し、SMB事業に特化した子会社に変更することを発表。当時の計画では、発表したおよそ半年後の09年10月1日付でスタートを切る予定だったが、1年遅れの10年10月1日にFJMが誕生した。
組織再編後の両社の違いは、NECネクサがターゲットエリアを東京、大阪、名古屋に限定しているのに対し、FJMは全国を活動エリアにしていること。それ以外は、再編時期も事業内容も同じであることから、両社のライバル関係はさらに色濃くなった。
年商は、11年度(12年3月期)の売上高ではNECネクサが692億円でFJMが1401億6700万円。企業規模は、ターゲットが広いFJMが上回っている格好だ(図1)。
再編後は共通点の多かった両社だが、ここ3年間で、少なからず違いが出てきている。例えば、パートナー戦略だ。ターゲットとする地域が違うことから、東名阪に限定しているNECネクサが直販に強いのに対して、全国へ展開するFJMはチャネル開拓に積極的だ。そして、この違いが、提供する商品の違いを生んでいる。NECネクサは直販で、自社のリソースで賄うことのできる領域が広く、扱う商品を変更しやすい。これに対してFJMでは、パートナーが扱いやすい商品を提供する必要があり、主力の「GLOVIA smart」を前面に押し出して販売しているのだ。
また、パートナー戦略の違いは、両社の営業方法にも大きく影響する。直販のウエートが高いNECネクサは、営業担当の人員が限られているため、売り上げを伸ばすためには新規顧客に接する機会を増やす必要がある。反対に、FJMは、パートナーに任せやすい体制ではあるが、セミナーなどでパートナーの営業支援を強化しなければならない。
SMBは有望市場
鮮明になるIT投資意欲
両社がターゲットとする国内SMBの市場規模は、調査会社のIDC Japanによると、前年比0.6%減の3兆5490億円(2012年)。国内IT市場全体が13兆5189億円なので、SMBは全体の約4分の1を占める。この数値だけをみると、SMB市場はさほど大きなマーケットではない。逆の見方をすれば、それだけ開拓の余地が大きいということでもある。積極的にビジネス展開すれば、ITシステムが整っている大手企業よりも、SMBのほうがビジネスチャンスがあるとみることもできる。
IDC Japanによれば、国内SMB市場は東日本大震災などの影響で12年は0.6%のマイナス成長、13年、14年も前年を上回る見込みはないが、15年以降は国内全地域でプラス成長に転じる見通しだ(図2)。
そして、14年まではSMB市場のマイナス成長が続くとしても、すべての企業がIT投資に対して消極的になるというわけではない。実際、11年に業績が上向いたSMBの48.3%が、12年のIT投資額を前年よりも増やしているという調査結果(IDC Japan)もある。SMBのなかで、IT投資に積極的な企業に狙いを定めて営業活動を手がければ、ビジネスを拡大することができるということもできるだろう。
それでは、このマーケット環境のなかで、NECネクサとFJMはどのような戦略を打ち出しているのか。「トップの考え」「商品」「売り方」にフォーカスし、それぞれをみていこう。
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