国内IT産業が停滞している状況の下、潜在需要を期待してSMB(中堅・中小企業)に挑むITベンダーが増えている。だが、残念ながら成功事例は少ない。多くのITベンダーは、SMBの攻略方法を模索している段階にある。失敗の経験をもとに、SMBをうまくユーザーとして獲得したベンダーの戦略に焦点をあてた。(取材・文/佐相彰彦、ゼンフ・ミシャ、安藤章司、本多和幸、真鍋武 構成/木村剛士)
【Case 1――ストレージ】
EMCジャパン
3か月で新規案件が約200件 倍々の売り上げ増に自信

中山泰宏
執行役員 高額で大規模システムに適したストレージを直販する──。かつてのEMCジャパンの販売戦略はこのかたちだった。その方針を転換して「Velocity」という販社制度をつくり、間接販売に取り組んだのが5年ほど前。方針転換の成果が現れて、現在は全売上高の80%を間接販売で稼ぐ。この時点で、一見すると、EMCのチャネルビジネスは成功したように思える。EMCが間接販売に取り組むそもそもの目的は大企業と新規顧客として開拓するだけでなく、従業員100~500人のSMBユーザーを獲得することにあった。しかし、それは思うように進んでいなかった。
EMCは、大企業に好評を博しているストレージ「CLARiX AX/CX」シリーズのSMBモデルをつくって、100万円を切る価格で販売に乗り出した。SMBを一気に獲得しようと攻勢をかけたのだ。しかし、本体自体は100万円を切るものの、遠隔地へのレプリケーションやクラウドへのバックアップなど、ユーザーの要望は大企業と同レベルだったので、SMBモデルでは対応できず、結果的に高額な製品を提案せざるを得ない状況を招いた。高額機種はユーザーの予算に合わない。その結果、商談の決裂が相次いだ。「SMBに本当に適した製品をもっていなかった」と中山泰宏・執行役員パートナー営業本部長は、当時を振り返って打ち明ける。
転機になったのは、SANとNASを統合したユニファイド・ストレージと呼ばれる「EMC VNX/VNXe」を2011年秋に発売したことだ。

従業員100~500人のSMBに受け入れられた「VNX/VNXe」 新しく投入した「VNX/VNXe」は、準大手企業向けの「CLARiX」と、大企業に適した「Celerra」を一つのプラットフォームに統合したもので、ブロックストレージとNASの利点を兼ね備える。これを100万円を切る価格で売り出したところ、多くの販売パートナーが「売れる」という感触をもち、再販に乗り出したのだ。
代表例はリコージャパンで、12年11月に戦略的なパートナーシップを締結。ダイワボウ情報システム(DIS)やソフトバンクBB、ネットワールドなどの1次店を経由して、リコージャパンが全国350拠点に配置する営業担当者が販売を担当。評価は他のITベンダーに広がり、富士通エフサスとも戦略的協業体制を築いた。
中山執行役員は「首都圏を中心に100~500人のユーザー企業の案件が数百件レベルに達している。今年4~6月の3か月間は200件強だった」と満足げ。「当面は倍々で伸びる」と自信満々だ。
[経験した失敗] 大手向け製品の廉価版を出せば売れると思っていた
[学んだ教訓] SMBでもニーズは大企業と同じ。SMBの要望を甘くみないこと
【Case 2――電子カルテシステム】
日立メディコ
前年度に比べて2倍の伸び 過去最高の受注件数を記録
医療機器メーカーである日立メディコは、中堅・中小規模の病院に対する電子カルテシステムの販売に力を入れている。
今でこそ、ベッド数200床以下の中堅・中小病院の電子カルテ導入率は30%程度まで高まったが、3年前の2010年には20%にも達しない状況だった。それだけに「ビジネスチャンスは大きい」(光城元博・製品企画グループ課長)とみて、開拓に乗り出した。だが、思った以上に競争は熾烈で、壁に突き当たることになった。
医療機器ではトップクラスの日立メディコだが、ソフトウェア主体の電子カルテ事業では、富士通とNECという電子カルテの二大ベンダーの牙城を崩すことができない。それだけでなく、シェアを伸ばそうとする中堅の電子カルテシステムメーカーにも押される始末で、攻略の糸口をつかめなかった。
日立メディコで電子カルテ事業を担当する渡部滋・メディカルITマーケティング本部長は、「いかにコストを抑え、病院の先生方が使いやすい電子カルテに仕上げるかということばかり考えていた」と、大規模病院を攻略できず、中堅・中小病院にも食い込めきれない苦境を明かす。
日立メディコは、徹底したモジュール化やオプション化を推進するとともに、SEによるカスタマイズを極力減らすことに努めた。そして重視したのが「従来の紙カルテの手順をただ踏襲するのではなく、ITだからこそできる業務運用を病院側に積極的に提案する」(佐々木元・企画グループ課長)という営業姿勢だ。
病院によって違いが大きい従来の紙カルテの業務手順を、そのまま電子カルテに移し替えようとすると、どうしてもSEが必要なカスタマイズ開発が発生し、病院に追加の費用負担を強いてしまう。このため、電子化のタイミングで業務手順の見直しを提案。必要に応じたモジュールやオプション機能の選択幅を増やすことで、一段と導入のハードルを下げた。
渡部本部長は「ここ1~2年で、ようやく安定したサイクルで仕事を回せるようになった」と、SMB攻略の施策が成果を出しつつあることを語る。昨年度(2013年3月期)は前年度比でほぼ2倍、過去最高の受注件数を記録した。今年度も「昨年度とほぼ同様の高水準で受注が相次いでいる」と、渡部本部長は胸を張る。

(左から)佐々木元課長、渡部滋本部長、光城元博課長[経験した失敗] SMBは導入率が低いので、やすやすと開拓できると思っていた
[学んだ教訓] ITだけでなく、業務プロセスの改善も提案すること
【Case 3――保守・運用サービス】
システムサポート
前年度比50%増で成長 解約企業はゼロ

システムサポート
山口正寛氏 石川県のSIer大手であるシステムサポート(小清水良次社長)は、「Oracle Database」の構築サービスを主力事業にしているが、業容の拡大を目的に、システムの運用・保守サービスに挑戦した。狙いを定めたのはSMB。年商300億円以下のSMBをターゲットに営業活動を開始したものの、思うように商談は進まなかった。
保守サービスでは、SEをユーザー企業に常駐させるタイプと、3か月など期間契約で、トラブルが発生した際にSEが駆けつけて解決するタイプの2種類を用意した。SE常駐型では、仮に1人月100万円とすると年間で1200万円のコストがかかり、SMBにとっては負担が重い。もう一つの期間契約タイプは、料金を1か月あたり60万円と常駐型よりも安く設定したが、「契約期間中にシステムに何も障害が発生しなかった場合は、かけ捨てになってしまう」(インフラソリューション事業部の山口正寛氏)ことが敬遠された。どちらのサービスも、ユーザー企業の懐事情を考慮せず、料金設定を誤ったことになる。
そこで、期間契約のタイプではなく、「チケット発行型保守サービス」というメニューを考案した。事前にチケットを販売し、SEがシステムの障害などの対応をしたときにチケットを回収する仕組みで、チケットは10枚綴り65万円に設定した。1年間の有効期限を設けているが、ユーザーがチケットを使い切らなかった場合には、残ったチケットの枚数に応じて、システムの診断サービスや、システムの改修など、他のITサービスで使えるようにした。これによって、ユーザーは、システムに問題がなかった場合でも、何らかのサービスを受けることができ、かけ捨てにはならない。
3年ほど前にサービスを開始し、早々にヒット。発売直後から順調な販売状況を示し、3年目は前年度に比べて約50%増のペースで売り上げが伸びており、「サービスの利用を停止したユーザーもまだゼロ」(山口氏)。必要な時だけSEが駆けつけてくれて、コストも安く、かけ捨てにもならないので、ユーザーにとっては使い勝手がよく、継続して利用しやすいことが受けている。
[経験した失敗] SMBのIT投資状況を的確に把握できず、料金設定を誤った
[学んだ教訓] ムダな出資にならないメニューを用意して納得感を与える
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