人類最初のイノベーションは「言葉」であり、その次が「文字」だ。長い月日を経てその次に来た革新は「インターネット」だと、私は思う。
1980年に出版されたAlvin Toffler氏の『第三の波(The Third Wave)』によると、インターネットは、農業革命(第一の波)、産業革命(第二の波)に続く第三の波「情報革命」を具現化する基盤であると記されている。デジタル技術とパケット技術が統合化されたインターネットは、伝送媒体と伝送されるコンテンツの両方に関する非依存性を実現することで、継続的な新技術・新サービスの送出を可能にした。「言葉」は、話者(伝送媒体)も内容(コンテンツ)も選ばない。「文字」も同様に記録媒体も内容も選ばない。インターネットにもこの考えが当てはまる。
さて、インターネットは、21世紀を迎え、これまでの「アナログ デジタル」から「ネイティブ デジタル」という第二段階の進化を遂げようとしている。20世紀のデジタルは、本や音楽・映像など、アナログコンテンツをデジタル化するものが主流だった。しかし、21世紀のデジタルは違う。デジタルなものをデジタル化することがメインになる。代表例は3Dプリンタだ。コンピュータでつくられたデジタル設計図を、3Dプリンタに送付すればデジタルな“モノ”を生成できる。
さらに、中間生産物を削減あるいは不要にして、“物”の生産が効率化・自律分散化される。電子楽器の自動演奏のために開発されたMIDIは、携帯電話における「着メロ」に応用され、さらに、VOCALOIDを用いた「初音ミク」へと進化した。
これは、『言葉や文字がデジタル情報であること』を用いて実現されたネイティブ デジタルなアプリケーションソフトと捉えることができる。現在の主流であるオンラインでの音楽配信・動画デジタル配信は、アナログデータをデジタルでエミュレーションしているもので、第一世代のメディア・サービスと捉えることができるだろう。すでに、音楽も映像も、川上から川下(CGC=Consumer Generated Contents)までCGとの融合・統合が急速に進展している。これはアナログ デジタルからネイティブ デジタルへの進化と捉えることができ、今後は音楽・映像の流通構造の本質的な革命が遅からず顕在化するはずだ。そして、この動きはすべての“もの”へと連鎖するであろう。
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江﨑 浩

江崎 浩(えさき ひろし)
1963年生まれ、福岡県出身。1987年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。98年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。