日本と中国の雇用環境は20年前と一変した。20年前の中国は、過半が地方からの出稼ぎ労働者で非正規社員であった。現在は、約90%が正規社員である。一方、日本では20年前なら約90%が正規社員だったが、現在では業種によっては約40%が非正規社員となっている。
今年は、日本企業の中国投資が半減している。原因としては尖閣列島問題などに伴う反中感情などもあるが、それよりも大きいのは円安元高で円の使い勝手が悪くなってコスト高になったこと、そして労働者を集めにくくなったことである。中国は、世界の工場や世界の輸出基地としての役割から、大きな市場としての役割へと変化した。したがって、日本企業も中国に対するビジネスの思考法やシステムを大きく変えなければやっていけなくなった。
その意味では、スーパー銭湯などを展開する極楽湯の上海進出が参考になる。昨年2月に進出したが、なんと初年度に黒字を達成して、現在は2号店を建設している。
まず、規模が日本の銭湯の6倍もある。投資額は1億元(約16億円)で看板や駐車場がとにかくでかい。お風呂のほか、ゲームセンターやカラオケルーム、日本食レストランなどもある一大アミューズメント施設である。入浴料は128元(約2000円)で決して安くないが、ときには3時間待ちになるほどの盛況ぶりだ。
客層は日本とは大きく異なる。極楽湯の日本食レストランで食事をしながら様子をみると、食事をしている17組のうち、12組は20代から30代の女性グループ、いわば女子友である。ほかは3組が家族連れ、1組がアベック、1組が男性一人であった。日本人は1組もいなかった。びっくりするのが、VIPルームだ。入会費が1万元(約16万円)、2万元(約32万円)、3万元(約48万円)のコース設定にもかかわらず、満杯になっている。
極楽湯の成功から日本企業が学ぶべきことがある。ハイテク製品や精密機器、高級品などを中国市場に売り込む日本企業の戦略は、大きく変更させたほうがよいということだ。中国にないサービス、システムを売り込む。そのためには、極楽湯のように自社の強みの確認力、そして中国風の味付けを加える工夫力が必要になる。どの業種でも共通するのではないか。
アジアビジネス探索者 増田辰弘
略歴
増田 辰弘(ますだ たつひろ)

1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。