五つの事務業務でマイナンバーの利用を検討
システム改修だけでは、ITベンダーにとって十分な商機にはならないとの声が根強い社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)。政府も、そしてITベンダーも、マイナンバーの利用範囲拡大による新しい産業の創出効果にこそ、大きな期待を寄せているといっていいだろう。
政府・IT総合戦略本部の新戦略推進専門調査会に設置されたマイナンバー等分科会は、その第一歩として、今年5月、利用範囲拡大に向けた当面の方針を公表。具体的には、「戸籍」「旅券」「預貯金付番(口座名義人の特定や現況確認)」「医療・介護・健康情報の管理・連携」「自動車の登録」という五つの事務業務でも、マイナンバーを活用できるように、ロードマップを整備していくべきとの考えを示している。現行のマイナンバー法では、マイナンバーの利用範囲は原則として、社会保障、税、災害対策の3領域に限られている。新たに活用を検討すべきとした5分野について、この3領域と親和性があり、なおかつ「公共性が高く、情報連携によるメリットが期待される」と判断したわけだ。
関係者間の利害調整にかなりの時間がかかる
ただし、ロードマップの詳細が決まるのは、まだまだ先のことになりそうだ。公式には、2018年をめどにマイナンバーの利用範囲拡大を目指すことになっているため、「マイナンバー制度がスタートする2016年1月には、大枠を決めたい」(濱谷健太・内閣官房IT総合戦略室参事官補佐)としている。しかし、横たわるハードルは高い。
当然ながら、個人情報の保護という観点からは、利用範囲が拡大するほどリスクが高まるし、「監視されている」という国民感情も膨らむおそれがある。また、実務上、さらにやっかいなのが、関係者間の利害調整だ。
とくに、預貯金付番と医療・介護・健康情報の管理・連携については、金融機関や病院など、民間との連携が前提になる。システム改修の費用を誰がどの程度負担するのか、また、セキュリティについては誰が責任をもつのかというのはシビアな問題だ。関係省庁間で、所管する業務の範囲をどう割り振るのかといった問題もクリアしなければならない。濱谷参事官補佐は、「少なくともセキュリティの確保は万全にしなければならないわけで、拙速は避けるべき。関係者間の意思統一を実現するまでには、相当な時間がかかるだろう」と見通しを語る。(本多和幸)