従来のITビジネスは、「システムをつくり、それを使わせる」ことを目的としてきた。しかし、クラウドの普及によって、ITインフラの構築や運用管理、システムの開発や保守といった仕事は、サービスへと置き替えられてゆく。OSSやSaaSの普及は、ライセンス販売を消滅に向かわせるし、人工知能の登場は、開発・テスト・運用など、これまで人間にしかできなかった業務を代替することになる。 このようなサービス化、オープン化、スマート化のトレンドに抗ったところで仕方がない。むしろ積極的にこのトレンドを味方につけることだ。その方法として、「システムを使い、サービスを提供する」ビジネスへの転換は、一つの選択肢になるだろう。例えば、自らがIaaSやPaaSを使い、お客様の業務に即応できる「高速開発サービス」を提供する。文書管理システムを使い、その入力代行サービスや原本保管のための倉庫業務を一体化したサービスを提供する、などだ。
人工知能やIoTを駆使した業務アプリケーションを構築し、そのシステムの維持、運用を提供するサービスはどうだろう。すでにいくつもの人工知能やIoTを利用するためのクラウドサービスが登場している。それらをうまく組み合わせて、サービスとして提供することもできる。
自ら人工知能やIoT、OSSの開発に貢献するとか、膨大なシステム資産を保有して独自のサービスを提供する──このようなビジネスも一つの選択肢だが、誰でもできるわけではない。だとしたら、「システムを使い、サービスを提供する」という選択肢のほうが現実的だ。
ただ、収益構造は、人月積算では難しい。それでも人月積算にこだわるなら徹底した技術の差異化、つまりは誰も手をつけられないような高度でニッチな技術や高い専門性で高額な単金を請求できなくてはならないだろう。
ならば、もっとハードルの低い、「システムをつくり、それを使わせる」から「システムを使い、サービスを提供する」へと、自らの役割を再定義してはどうだろう。このような取り組みを行ううえで、テクノロジーやビジネスのトレンドを正しく理解しておくことは、何よりも大切だ。限られた経験の範疇を越えられず、過去の成功体験に引きずられてしまうようであれば、未来がないことだけは覚悟しておいたほうがいいだろう。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。