先日、清澄白河にブルーのボトルマークのコーヒーショップがオープンした。「Blue Bottle Coffee(ブルーボトルコーヒー)」だ。コーヒー界のアップルとも呼ばれ、グーグルの創業者も出資する話題のお店である。ブルーボトルコーヒーのように1カップずつていねいに淹れるお店は「サードウェーブコーヒー」と呼ばれるが、実は日本の喫茶店では昔からおなじみのスタイルだ。ブルーボトルコーヒーのジェームス・フリーマンCEOは、日本のコーヒーショップからヒントを得たと述べている。
コーヒー業界界隈は、このサードウェーブコーヒーを中心にさまざまな動きが始まっている。画像解析技術によって、コーヒー粉の粒子の最適なサイズを計算する技術や、酸素をほとんど含まないパックで、挽きたてに近い状態で保存できる技術を開発した「Perfect Coffee」、コーヒー抽出の温度を完璧にコントロールすることを可能にし、いつでも最適な味や香りを再現するマシンを製造している「Blossom coffee」。このマシンはインターネットで最適なレシピをやり取りでき、ロースターが指定する抽出をどこでも再現できる。
これらは、アップルや電気自動車のテスラ、そしてNASAなどが輩出したエンジニアのスタートアップがつくるIoT(Internet of Things)の一つのかたちだ。エンジニアがコミュニケーションのガジェット(道具)として愛用してきたコーヒーをイノベーションの対象とし始めたのである。そして先日、ブルーボトルコーヒーがPerfect Coffeeの買収を発表した。“ほしい技術は買収する”。そのスピードはまさにシリコンバレー流である。
これまではPCやスマートフォンを使ってリアルのサービスの新しいインプット手法や、インターフェースをつくり上げるものが多かったスタートアップだが、IoTブームによって、よりリアルなサービスそのものにイノベーションのテーマが移ってきている。便利なタクシー配車サービスを立ち上げるだけでなく、タクシー会社そのものをブランディングし運営する「Uber」など、ITサービスだけではできないリアルな運営を含めてイノベーションを起こし始めているのだ。
今年はスタートアップのサービスを阻害するような保守的な業態においても、スタートアップ自身が製造からデリバリまでを担うかたちで打破するようになるだろう。大きな動きが今まさに準備されつつあることを付け加えておきたい。
事業構想大学院大学 特任教授 渡邊信彦
略歴
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)

1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。