パソコンを利用する際、まずユーザー名とパスワードを登録し、そのユーザー名とパスワードでログインしたうえでアプリをインストールすれば、そのユーザー名とパスワードでアプリを利用できるようになり、ユーザーが管理するフォルダ内にそのアプリで作成されたデータが格納される。同じようにしてセキュリティ対策ソフトを導入すれば、どちらのアプリやデータに対してもセキュリティ対策が施される。パソコンのUSBポートにプリンタやスキャナをつないで、それぞれのデバイスドライバをインストールすれば、パソコンにインストールされたさまざまなアプリからそれらのデバイスを利用できるようになる。マイクロソフトWindowsやLinuxと呼ばれるパソコンの基本ソフトウェアは、こうしたさまざまな管理機能を担っている。
このようにパソコンを利用する際に誰もがあたりまえと思っているさまざまな管理機能を、いろいろなクラウドサービスを利用する際に一様に適用することを考えると、実は容易でないことに気づく。このことがクラウドサービスを活用するうえでの大きな障壁の一つとなっている。要するに、クラウドサービスを活用するには、WindowsやLinuxに備わっているような、クラウド上のコンピューティング資源を統合管理するための諸機能が必要だということである。
具体的には、今、パソコンで使用中のアプリをクラウド上へインストールして利用するためには仮想デスクトップやシンクライアントという仮想化技術があるし、パソコンのUSBポートにつながれたプリンタやスキャナをクラウド上のアプリから利用するにはUSB仮想化技術というものもある。また、いろいろなクラウド上のストレージサービスをLAN内のストレージと統合して一つのシームレスなストレージとしてみせるストレージ仮想化技術もあれば、クラウド上に構築した仮想化サーバーとLAN内のサーバやクライアント端末を統合するネットワーク仮想化技術もある。さらに、いろいろな種類のクライアント端末、サーバー、アプリなどに付与されたユーザーIDやパスワードを一元管理する技術もある。
分散したさまざまなコンピューティング資源を統合し、運用管理するこれらの技術に関する幅広い知見をもつことが、いろいろなクラウドサービスの活用を推進するための鍵を握ることになる。
一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫
略歴

松田 利夫(まつだ としお)
1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。