クラウドファーストという時流に乗って、データセンター事業者やシステムインテグレータの皆さんが、これまでユーザー企業が使っておられる企業内情報システムをクラウド基盤上へ移行するための支援事業に取り組んでおられる。このような状況はクラウドサービスの啓蒙・普及活動に長年取り組んできた身には大変うれしくはあるのだが、その一方で、将来を見据えたクラウド基盤移行のための最適な選択がなされているかという点については少なからぬ懸念をもって見守っている。
クラウド基盤といっても、そこにあるのはMicrosoft WindowsやLinuxが搭載された仮想サーバー群に過ぎないし、どこのデータセンターでも似たようなものだと考えておられる方も少なくないのではなかろうか。実際に利用すればすぐにわかることだが、どちらも同じようなクラウド基盤技術を使っているにもかかわらず、その処理速度、使い勝手、そして費用など、データセンター間の隔たりは小さくない。そのなかから多様なユーザーニーズに適したクラウド基盤を唯一選択するということは難しく、情報システムを構成するサブシステムごとに最適なクラウド基盤を個々別々に選択できる自由度が必要になる。
一般のクラウドサービスの選択に際しても同じようなことがいえる。例えば、顧客管理システムを構築する際に、クラウド型のセールスフォース・ドットコムを選択するか、オープンソースのSugarCRMを選択するかといった二者択一の選択にとらわれず、両者を組み合わせて、それぞれの特質を生かし、かつどちらにも過度に依存しないシステム構成や運用を考えるという選択もある。実際、私どもの海外提携先の一社は、セールスフォース・ドットコムとSugarCRMを組み合わせて、それぞれの特質を生かしつつ、それぞれへの依存度を分散するという工夫を凝らしたシステム提案を売りにしている。
このように各種クラウド基盤やクラウドサービスを活用して、将来にわたって最適な企業内情報システム体系を維持し続けるためには、特定個々のクラウド基盤やクラウドサービスへの依存度を低く保ち、システムの移行性を高く保つことが必要となる。そのためには、各基盤やサービスに対して中立的なミドルウェアやクラウドサービスブローカーシステムのような技術を活用することが有効である。
一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫
略歴

松田 利夫(まつだ としお)
1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。