会社員時代に積み上げたマーケティングの経験を生かし、マーケティングサポートや商品企画を事業とする会社としてスタートした夢香。その事業は現在も続いているが、マーケティングを外注するニーズは決して活発ではないことから、起業時に思い描いたような収益を上げられなかった。このままでは会社を大きくできないと考えた藤生香織・代表取締役は、SES(System Engineering Service)の存在を知る。ただし、未経験者がいきなり参入できるほど甘い世界ではなかった。(取材・文/畔上文昭)
Company Data会社名 夢香
所在地 東京都墨田区
資本金 300万円
設立 2010年3月
社員数 13人
事業概要 ITソフトウェア開発および販売事業、業務請負業、労働者派遣事業、マーケティングサポートおよび販売・商品企画、各種販促ツール企画・制作、ホームページ企画・制作
URL:http://www.youmeka.com/ SI未経験からのスタート

藤生香織
代表取締役 「何度も騙された」と夢香の藤生代表取締役は、SESへの参入当時を語る。SESを始めたばかりの頃は、SESの発注企業から依頼があったときに、紹介できるエンジニアを探すというところからスタートした。知り合いを当たってエンジニアを確保し、SESの発注企業でシステム開発に従事する。これで、エンジニアの人件費が売り上げとなって、夢香に入るはずだった。
「当時のエンジニアは夢香の社員ではないということもあって、気がついたら夢香をスルーして中抜きの契約になっていて、当社の売り上げには結びつかなかった」と、藤生代表取締役はSESの参入時を振り返る。まったく知らない業界ということもあって、いいように利用されていたのだ。
そこで藤生代表取締役は、システム開発会社に願い出て、営業部門で修行する機会を得た。「マーケティングを中心にやってきたこともあって、技術力も営業力もなかった。システム開発会社で営業の勉強をさせてもらったが、SI業界の仕組みを理解するうえでも、いい機会となった」。修行を終えると、SES事業で再スタートした。
やる気重視で未経験者も採用
会社員時代は、マーケティング部門で経験を積んできた藤生代表取締役。起業時もマーケティング事業を主力にすることを考えていた。「2年間頑張ったけれど、マーケティングを外注する企業は少なく、事業としては厳しいものがあった」。マーケティングの事業は現在も継続している。ただ、会社を大きくするには、別の事業を始めなければいけない、そう考えていた頃に、“手堅い”として知人に勧められたのがSES事業だった。
参入障壁が低いといわれることの多いSES事業だが、それは社内でエンジニアを確保している場合のこと。ましてや、SI業界の経験がない場合は、SES事業への参入は決して簡単ではない。エンジニアをどう確保するかということも、大きな問題だ。
SESを始めるにあたって、一般的にはエンジニアの確保が課題となる。案件が多く、人手不足とされるSI業界だが、誰でもいいというわけではない。元請け会社からは、ある程度のレベルが要求される。「優秀なエンジニアを採用したいが、簡単ではない。募集をかけて、経験豊富な人材が来るまで待つという余裕もない。そこで、やる気を重視して、採用している」と藤生代表取締役。入社の条件として、最低限の知識を身につけてくることとしているが、当然、即戦力にはならない。藤生代表取締役は、そういった経験の浅い人材でも受け入れてくれる現場、かつ一人前のエンジニアとして育つことのできる案件を探して、営業をかけている。
「人は期待されると、応えようとする」と藤生代表取締役。未経験者のやる気を信じて採用してきた結果が徐々に出てきており、現在では社員が13人と、順調に増えている。社員のほとんどがエンジニア。まだまだ積極的に採用していく方針である。
派遣法改正を乗り切る
目下の課題は、労働者派遣法の改正にどう対応するかである。「SESとしての事業が変わることはない。ただ。純資産が2000万円以上としている法規制が、とても大きな課題。猶予期間が3年あるので、それまでには準備したい」と藤生代表取締役は語る。
労働者派遣法の改正を機に、SI業界全体の動きも活発化しているという。「合併や出資などの話もいただいているが、株式を公開するつもりはないし、独立会社としてやっていきたいので、なんとか企業努力で2000万円を用意する」。むしろ、労働者派遣法の要求をクリアすることで、企業としての信用度が上がるなど、プラスに考えている。
今後については「あまり先のことは考えないようにしている。半年後、1年後が重要」と語る藤生代表取締役だが、SES事業が軌道に乗ってきたことで、新たな事業を少しずつ模索していきたいとしている。