電気自動車は、参入が難しかった自動車市場にITベンチャーが名乗りを上げるきっかけとなった。これは単にエンジンがモーターに置き換わったということではない。オープン志向なITベンダーが車をつくること、それが自動車業界の勢力図を違う方向から崩す可能性がある。カーナビに関しても、車メーカーのカーナビがグーグルマップにかなわないのは、車中心に考えられたナビと、携帯電話として常に身につけていることを前提につくられたナビでは、ユーザビリティがまったく違ってくるからだ。24時間ユーザーの動きを把握し、小さな画面をいかに快適に操作させるかを追求してきた蓄積は大きい。取得しているデータも雲泥の差である。車の走行データで行動を判断しようとしても、個人の趣味嗜好までは想定できない。一方、スマートフォン起点のサービスは、さまざまなソースからユーザーの行動全般を把握している。だからこそ、ユーザーにマッチした情報提供や機能を展開していけるのである。
過去には、金融業界がビックバンでオープンになった時も、インターネットベースの銀行や証券会社といった異業種参入組が仕組みを大きく変えていった。自動車業界においても、エンジンがモーターに代わることで、排除できていた他業態の参入を容易にし、勢力図が変わろうとしている。
そんな業界がもう一つある。電力の小売り自由化を控えるエネルギー業界だ。太陽光をはじめとして、エネルギーをつくることが容易になり、それを取引所で取り引きすることが可能となる。安いところから買って、高く売る。つまり金融取引になるわけで、一気にオープン化が進む。単に誰もがつくれて売れるようになるということが、革命なのではない。例えば、銀行が電気を販売するとしよう。電気代が月額で300円安くなってもわかりにくいが、コンビニでのATM利用料を無料にしたり、振込手数料を無料にしたり、ユーザーがお得と感じやすい自社サービスに置き換えることができるのだ。
これまで手を出せなかった領域に他業種から参入し、ビジネスがプラットフォーム化していくことで、意外なサービス展開が起こる。電気が安くなることだけではない新電力、面白いことがおきそうだ。
事業構想大学院大学 特任教授 渡邊信彦
略歴
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)

1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。