景気に左右されやすい受託開発。リーマン・ショック時には、ほとんどのSIerが業績を落とした。景気が悪化すると発注元が新たな投資を控えるため、SIerの業績が落ち込むのは当然ではあるが、無策のままではリーマン・ショック級の不況が再度訪れるような事態になると、生き残れないかもしれない。「リーマン・ショックのような不況が、2017年か2018年頃にくる」と想定しているアトムシステムの細野哲也社長は、海外に活路を見出そうとしている。(取材・文/畔上文昭)
派遣は今後厳しくなる

細野哲也
代表取締役社長 約7割が客先常駐による売り上げで、残りの約3割が一括請負のシステム開発という構成になっているアトムシステム。パッケージシステムやSaaS型のサービスも手がけているが、売り上げの1割に満たない。客先常駐については、ほとんどがユーザー企業だが、大手ITベンダーにも人材を送っている。
首都圏では現在、システム開発案件が多く、エンジニア不足の状態が続いている。細野社長も、エンジニアを増強しさえすれば売り上げを伸ばすことができると、案件過多の状況を実感しているという。ところが細野社長は、「国内の案件については現状のままにする」とし、規模の拡大を目指していない。いずれ、システム開発案件が縮小すると考えているからだ。
「エンジニアの派遣は、今後厳しくなる。アベノミクスで景気はよくなったが、その反動はいずれくる。今は景気がいいので稼ぐだけ稼いでおくということもできるが、会社の将来を考えると適切とは思えない。リーマン・ショックのときは、本当にひどかった。また、そうなるときがくるのではないか」との考えから、細野社長は現状の国内事業に関しては慎重に進めている。
不況が訪れるという根拠の一つが、大手金融機関の大型開発案件が2017年に終了する予定のため。その余波から、20年開催の東京五輪の2年前となる18年には、エンジニアが余ると予想している。
東南アジアに進出
国内が厳しいとなれば、海外に目を向ければいい。アトムシステムは、今年2月に東南アジアのマレーシアに駐在員事務所を開設。4月には南アジアのバングラデシュに現地法人を設立した。
新興国では、ハードウェアは有料でソフトウェアは無料という傾向がみられるが、「マレーシアには、ソフトウェアを購入する文化が根づいている。オンプレミスの歴史がないので、クラウドの採用も積極的」と細野社長。また、「マレーシアでは、日本と同様にエンジニア不足の状態になっている」という。開発現場で必要とされるエンジニアを教育し、現場に派遣するビジネスが、マレーシアにおいても十分に成り立つのである。そこで、マレーシアの駐在員事務所を早期に現地法人化して、システム開発の体制を整えていくことを目指している。
バングラデシュの現地法人には、自社パッケージシステムの開発をアウトソースしている。また、現地での受託開発案件も獲得している。「現地に進出している国産大手ITベンダーが、エンジニアを必要としている。現地のSIerに委託することもできるが、クオリティを求めて日本のSIerと組むことを望んでいる」と、細野社長はビジネスチャンスを見出している。
気になる現地の人材の“質”については、「日本よりも優秀」と言い切る。暇な状況をつくるとモチベーションが落ちるというほど、取り組み意欲が高いという。
日本でも会議は英語
バングラデシュの人材が優秀なことから、日本本社でも採用を進めている。すでにバングラデシュ出身の正社員が3人、エンジニアとして働いている。外国人の採用を機に、社内会議では英語を使うことにした。
「英語にした理由は、最終的には米国に進出したいから。やはり、ITといえば米国。東南アジアを起点として、米国に進出したい。東南アジアに本社を移すことも考えている」と、細野社長は今後の展開について語る。とはいえ、日本市場を軽視するのではなく、同社のノウハウが生きる分野に経営資源を集中させることで、景気に左右されにくい体制を整えていく方針である。
ちなみに、マレーシアとバングラデシュを選んだのは、「日本を尊敬していて、日本ブランドを認識している」ため。日本企業が進出しやすいムードがあると話す。「ただし、新興国は発展のスピードが速く、例えばオフィスの契約でも、その場で即断しなければ押さえられない。稟議書をつくってというような、日本の大企業のスピード感では対応できない」。意思決定が早い小さな会社にこそ、チャンスがある市場というわけだ。