IoTソリューションは、ユーザーのビジネスのかたちそのものを大きく変える可能性をもつ。だからこそ富士通は、そうした効果を検証する「PoB(Proof of Business)」が不可欠だと考えている。ただし、「IoTはビジネスのフロント側と深く連動しているため、お客様と共同で行うPoBのデータは公表しづらい」(大澤達蔵・ネットワークサービス事業本部IoTビジネス推進室シニアディレクター)という状況がある。そこでまずは、グループ内のPoBの成果をIoTソリューションの構築につなげていく。(本多和幸)
富士通は、グループ内で実際にIoTのPoBが進んでいる事例として、通信機器を製造している富士通アイ・ネットワークシステムズ山梨工場での取り組みを公表している。製造の現場でのIoT活用だが、大澤シニアディレクターは、「単純に工場をオートメーション化して品質や生産性の向上につなげようということではない」と強調する。「この事例も、全社方針の“ヒューマンセントリック”が基本にある。働く人の意欲の向上や働きやすい環境を実現し、結果として品質、生産性の向上につなげていきたいというのがコンセプト。あくまでも働く人に起点を置いたビジネスの変革を目指している」。
具体的なプロジェクトの内容としては、製造現場で発生するさまざまなセンシングデータと、生産機械のログや製造実績、作業員の情報といった関連するデータをクラウド上に集約して、製造現場を可視化した。大澤シニアディレクターは、「ベルトコンベアで渡っていくとか、時には人手を介して渡すとか、検査工程があるとか、本来、生産ラインのプロセスは、人の動きと機械の動きが混ざってつくられるが、これまでは機械単体の情報しかみえていなかった。それをトータルで『見える化』することで、IoTによって新しい価値を生み出す第一歩を踏み出した」と説明する。集約したデータは、ラインの滞留や生産ロスの要因分析に活用したり、ラインの外側で人間が行う段取りに費やす時間の短縮など、プロセスの最適化のためにフィードバックしており、改善のためのこうした一連のサイクルを繰り返しているという。
まだ検証の途中ではあるが、顕著な効果が現れている。「日本の企業はもともと、生産ラインの効率化そのものは進んでいた。今回、さらに人の動きも含めてトータルで見える化したことで、どこが生産ラインのネックになっているのかとか、どこに改善の余地があるのかなどが即日わかるようになった」(大澤シニアディレクター)。これまでは、そうした分析に1週間ほどかかることも珍しくなかったため、改善サイクルが回しやすくなったといえる。