電話機向け通信機器の商社として1930年に創業した信興テクノミスト。現社長の池野大助氏は、オーナー家出身の4代目だ。2008年にトップに就いて、わずか半年後にリーマン・ショックが発生。情報サービス業界にも少なからぬ影響があった。その頃から池野社長は「現状の収益構造のままでは、万が一、取引先が傾くと、当社も連鎖的に足をすくわれかねない」と、危機感を強め、収益モデルの改革に取り込むことになる。(取材・文/安藤章司)
Company Data会社名 信興テクノミスト
所在地 東京都品川区
資本金 6000万円
設立 1930年12月
社員数 約480人
事業概要 1967年にコンピュータ部門を創設し、日立系のメインフレームの保守運用サービスに参入。70年代からはオフコン向けのソフトウェア開発も手がけ、現在のSIerへと成長する基礎をつくった
URL:http://www.shinko-1930.co.jp EAIやIoT、AWSなんでも来い!

池野大助社長(右)と滝口政行・システムプロデュース本部本部長 信興テクノミストは、メインフレーム/オフコン時代から綿々と培ってきた盤石な顧客基盤をもっていたものの、仕事の内容をみると中央省庁や自治体、公共団体向けの大型プロジェクトの比率が高かった。
案件が大きくなるほど、大手ITベンダーの協力会社(アンダー)として参画する割合が高くなる。もし、もう一度、リーマン・ショックのような景気後退が起こって、元請け(プライム)の経営が傾けば、共倒れの危機に瀕してしまいかねない。そこで、一般民需に向けたプライム案件の割合を増やすことで、事業環境の急変にも耐えられるバランスのよい収益モデルの構築に努めているのだ。
具体的には、独自のサービス商材を拡充するため、サービスの企画から開発、運用まで一貫して手がける「システムプロデュース本部」を2012年に新設。以来、データ連携のEAI(業務アプリケーションの統合)や、さまざまなデバイスをインターネットに接続するIoT、Amazon Web Services(AWS)を活用したITインフラの刷新などのビジネスを矢継ぎ早に立ち上げてきた。
例えば、今年7月にはEAIの領域で、インフォテリア「ASTERIA WARP」とクラウド型の名刺管理サービス「Sansan」を連携させる専用アダプタを開発した。ユーザー企業の業務システムとSansanのデータ連携を容易にできることから、ユーザー企業はもちろん、EAIを手がけるビジネスパートナーからも「引き合いが相次ぐ人気商材」(滝口政行・システムプロデュース本部本部長)となっている。

本社オフィスのリフレッシュルーム。広々としたスペースに大きなソファー、暖色系の内装。社員同士がくつろぎながら交流できるよう気配りしてあるユーザーと目標を共有して前進
しかし、協力会社としての立ち位置で、大手ベンダーからの受託仕事をこなすことが長かったこともあり、「初めて訪問するユーザー企業の門の前で足がすくんだ」(滝口本部長)と振り返る。自分たちでつくったサービスやシステム商材は、ユーザーの業務にきっと役に立つ。商材に自信はあるものの、実践するとなるとハードルが高かった。
こうしたなかで重視したのが“チームで仕事をする”スタイルだ。ユーザー企業からも信興テクノミストという“チーム”と組んでいるという意識をもってもらうため、「ユーザーと当社は同じチームとなってITを活用した課題解決や、新しいビジネスの創造に取り組む姿勢を徹底する」(池野社長)ようにした。
池野社長は、信興テクノミストに入社する以前、ある機器メーカーの社員として香港に駐在していた。1990年代は中国で工場の建設ラッシュが続いていた頃で、香港の現地法人のスタッフや、提携先の工場の幹部らと一緒に仕事をしていたが、そのなかで最も苦労したのが「チームで仕事をする」ことだった。個々人の能力は高いのに、自分のもっているノウハウを仲間と共有しきれないために、チームとしてみるとギクシャクしたものになってしまう。
97年に信興テクノミストに入社してからは、社員同士の交流に努めており、本社オフィスには社員が気楽に交流できるリフレッシュルーム(写真参照)を設置したり、バーベキュー大会などの社内イベントも欠かさず開催している。その成果もあってか、ここ数年、中途採用で加わった社員約60人で退社したのはわずか1人。また、新卒採用も毎年必ず実施しており、「とにかく続けさせて、人を育てる」ことに力を注いでいる。
個々人の能力を一つのチームにまとめあげることで、サービスの品質が高まり、チームで仕事をする文化が育まれる。同社の社是は「品質第一、人の和、技術への挑戦」であり、人の和(チーム)の意識を強めることが、ユーザーと目標を共有して、ともに前へ進む高品質なサービスを提供することにつなげている。