2000年頃のパソコンが、10年頃にはスマートフォンになり、いよいよ最近ではUSBメモリくらいの大きさになった。基本ソフトウェアも、オープンソフトウェア化が進展した結果自作でおもしろい小型・高性能機器を創作できるようになってきた。これを、最近はIoT(Internet of Things)と呼んでいるようだ。すべてのデバイスが、最先端の無線通信技術でインターネットに接続され、膨大な量のデータが、インターネット上に展開されているデータセンター内のサーバーに転送され、ビッグデータ解析が行われ、さまざまなサービスが創成されるとともに、実空間の管理と制御が行われ、スマートなインフラが実現するというビジネスストーリーだ。
1990年代後半に、IPv6を用いたユビキタスコンピューティング環境の研究開発と産業化の議論の際に行っていたものとよく似ている。当時の一番の懸念は、TCP/IPを実装したいろいろなシステムが、インターネット産業以外の分野で導入・展開される場合に、これらが、インターネットに接続されない固有のサイロを形成し、固有の相互接続されないネットワークを形成し運営されることだった。現在のIoTは、グローバルな接続性を提供可能なTCP/IPは利用するかもしれないが、Walled Gardenとよくいわれる「保護された空間」を意図的に形成して、ユーザーを囲い込むVertical Lockーonのシステムが構築され、多数のFragment(断片化)された空間を生成しようとしているのではないだろうか。この「保護された空間」で用いられるアプリケーションレイヤでの識別子などは、グローバル性や他の「保護された空間」との相互接続性を考慮しないものとなってしまう場合が非常に多くみられる。
12年に大きな問題として取り上げられた、NTTグループが提供したクローズドなIPv6網を用いたNGN網とNGNサービスに似た状況だ。W3C(World Wide Web Consortium)が進めるWoT(Web of Things)は、Fragmentされたウェブの空間にならないよう努力をしているし、さまざまな組織がインターネットのFragment化への懸念を表明している。インターネットは、唯一の共通のプラットフォームという重要な特性を維持できるかどうかの瀬戸際にあるように思う。Fragmentを防止することこそが、IoTの成功の必須条件のはずなのだが。
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江﨑 浩

江崎 浩(えさき ひろし)
1963年生まれ、福岡県出身。1987年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。98年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。