共通的な基盤やアプリケーションをユーザーに提供するクラウドサービスは、「規模がものをいうビジネス」とみられることが多く、大規模なベンダーほど市場で有利な位置につくことができると考えられがちだ。しかし、札幌を拠点にシステム開発を行うユーザーサイドの那須伸二社長は、「大手のクラウドサービスが流行ったことで、われわれが勝てる部分もあると確信した」と話し、中小ベンダーでもクラウドに商機はあると強調する。(取材・文/日高彰)
Company Data会社名 ユーザーサイド
所在地 札幌市北区
資本金 6700万円
設立 2005年2月
社員数 40人
事業概要 ITシステム導入に関するコンサルテーション、ネットワーク・サーバーなどのシステム構築、自社クラウドサービスの提供などを行う総合ITサービス企業
URL:http://www.userside.co.jp/ クラウド化で戸惑う地方企業

那須伸二
代表取締役社長 札幌に本社を置くユーザーサイドは、主に地場の企業を顧客として情報システムの構築や、自社アプリケシーションの提供などを行う40人規模のSIerだ。
那須社長は、「ウェブページの制作から基幹業務アプリの開発、IT資産の廃棄処分まで何でもやる、地方の普通のSIer」と自社を紹介するが、同社のエンジニアは、1990年代に日本テレコムの社内ベンチャーとして、北海道でのデータセンター事業の立ち上げを手がけたメンバーが中心。ネットワーク構築の分野では高度な技術やノウハウを有しており、中小規模のSIerながら、取引先には札幌に本社や支社を置く大企業の名前がずらりと並んでいる。
那須社長は、とくに地方においては当社のような小回りの効くITサービス企業の役割が重要と強調する。「ITのトレンドは集中から分散へ、そしてまた分散から集中へという流れを繰り返してきたが、今はクラウド化で大きなプラットフォームへの集約が進んでおり、ITを提供するベンダー側の論理が強くなっていると思う。テクノロジーのオープン化で、インフラやアプリケーションを自由に選べるようになったといわれるが、それで本当に使いやすくなったかというと、地方のユーザーにとっては必ずしもありがたいことばかりではない」(那須社長)。オープン化、クラウド化で自由度が増した分、ユーザーは主体的にそれを使いこなしていくべきだが、多くの地方企業にとってそれは理想論に過ぎないという見方だ。「地方ではIT人材の確保が難しく、確保したとしても、IT担当者のキャリアパスを描けないため、社内で新しい技術を吸収・蓄積していくのが難しい」と那須社長は指摘する。「僕らでもきちんとクラウドを取り扱うのは大変なのに、ユーザー自らがやるのはなおさら困難」(同)。
コテコテの対面営業
とはいえ、運用や資産管理の手間から解放され、規模の小さい企業や事業所でも最新のITを活用できるようになるという点は、クラウドの大きなメリットだ。ユーザーに代わってクラウドを活用したシステムを構築、運用していくところに、今後十分な商機があると考えている。那須社長は「僕らの狙いは、“顔の見えるクラウド”。クラウドサービスというとウェブの画面からしか申し込めないようなイメージがあるが、僕らのスタイルはコテコテの対面営業。もちろん製品や技術には自信があるが、万が一何かあったら、すぐに菓子折りをもって飛んでいく(笑)」と話し、クラウド時代においても求められているのは、伝統的な御用聞きスタイルという。
受託開発も行っているが、並行して自社のSaaSとして提供しているオンラインストレージサービス「青雲」が好評だ。オンラインストレージというとグローバルでサービスを提供するベンダーも多く、差異化も難しい分野だが、青雲はActive Directoryに連携してユーザー管理が可能なほか、すべてのファイル操作をログとして記録できるなど、エンタープライズ向けの機能が充実しており、大企業からの引き合いが多いのだという。もちろん、グローバルベンダーのクラウドサービスでも同様の機能を利用することはできる。しかし、機能によって追加のライセンスフィーを払わなければいけなかったり、サードパーティのソリューションを連携させる必要があったりと、使える状態にもっていくまでに複雑さがある。
また、企業向けの機能を装備しながら、課金体系がシンプルなのも特徴だ。海外ベンダーのクラウドサービスに付帯するオンラインストレージ機能は、ユーザー1人あたりいくらといった課金体系が多いが、青雲はユーザーアカウント数無制限で、月額料金は全体のストレージ容量で決まる。那須社長は「人数や機能によって料金が変わるシステムよりも、『月々何GBでいくら』のほうが、担当者も稟議書が書きやすいでしょう」と話し、徹底してユーザーにとってのわかりやすさを優先する。
東京の中小は中小ではない
ユーザーサイドでは、札幌の本社に加えて東京にも営業所を構えている。東京の中小企業は高度なITを取り入れていることも多く、那須社長によると「札幌の感覚からすると、大企業のようにみえる中小企業も少なくない」という。
ただ、逆にいえばべンダーが企業に納入しているITと、ユーザーが実際に必要としていたITにミスマッチが生じている可能性もある。札幌の大手企業と東京の中小企業を見比べることで、本当にユーザー視点に立った「使えるIT」の提案が可能になると考え、東京での売上規模は大きくないものの、営業活動には力を入れる。
今年は大きな情報漏えい事故が頻発したことで、セキュリティ関連でも最近は引き合いが多くなっているが、その分野でもデータセンター時代に蓄積したノウハウが役立っている。那須社長はこの先5年で年商を5倍の20億円規模まで拡大し、海外にも事業範囲を広げる青写真を描く。